ホーム パーソナリティ紹介 これまでの放送-放送日から検索 これまでの放送-地図から検索 H15/3までの放送 番組あてメール ラジオ大阪

 

震災直後の国道2号
写真提供:国土交通省兵庫国道事務所
<翌朝>
道子「幸男さん、もう出られる?」
幸男「うん、大丈夫や。そっちはどや?」
道子「準備できた。ねえ、美紀ちゃん。お父さんとお母さん、西宮のおばあちゃんの様子見に行ってくるから、お昼はここにあるもん、食べといてね。あんまりぎょうさんないけど、後から何か探して買うてくるから、暫く我慢しといて」
美紀「うん。おばあちゃん、元気やったらええね」
道子「そやね」
幸男「さっ、行こか」
道子「はい。ねえ、どないして行く?」
幸男「ラジオで言うてたけどな、まともに通れるのは国道2号線ぐらいらしいわ。43号線は、深江で阪神高速が崩れてるらしいし」
道子「ほな、札場(ふだば)筋から171 号線に入って、甲東園まで上がって行くん?」
幸男「多分、そないなるやろな。取り敢えず、行ってみんと分からん。2号線まで出てみよ。ほい、手袋していけや」
道子「あっ、うん、ありがと」

<国道2号にて>

道子「うわーぁぁぁ、これはひどいわ。想像以上や」
幸男「これ、2号線やろ!とても、西日本の大動脈の姿やとは思われへんな。ぎょうさん、家、やられとる」
道子道子「歩道が家の瓦礫やら倒れた電柱やらで塞がってるやん。とても、自転車でなんか行かれへんわ」
幸男「そやな。車道にまで歩行者が溢れてるもんな」
道子道子「この渋滞してる車、少しずつでも動いてるんやろか」
幸男「いや、ほとんど動けんやろ。車と車の隙間を縫って進んで行こか。けど、いつ動き出すかわからへんから、気ぃつけてな。歩いてる人にもや。それと、車のドアが急に開くかも知れへんから、それも用心するんやで」
道子「うん、分かった。よいしょと」
   *
道子「道の上にいろいろ落ちてて、結構、走りにくいわ」
幸男「ほんまやな。おい、見てみい、あそこの病院」
道子「うわっ、包帯ぐるぐる巻きの人が溢れてるやん。ベッドもないんやろうな」
幸男「修羅場やな。このめちゃめちゃに壊れた建物や、まだ所々、煙がくすぶってま様子て、なんや空襲の後みたいな」
道子「映画でしか見たことないけど、こんな感じやったんかな。ねえっ、あれなに!」
幸男「自衛隊や。装甲車や。やっと来てくれたんやな。給水作業や救出作業をしてくれてるはずや」
道子「渋滞やから、ここまでくるのも、大変やったやろうな」
幸男「そやな。おっ、札場筋が見えてきたぞ。あっこを左や。ちょっと急ぐで」
道子「うん」

<国道171号にて>
幸男「171 号線沿いの方が、2号線沿いよりも、壊れてる家が少ないな。信号も動いてるやん」
道子「神戸や芦屋より、こっちがちょっとマシやったんかな」
幸男「そうかもしれんな。そう信じて行こや。おお、阪急の門戸厄神駅や。あとひと駅やで。あとちょっとで甲東園の駅やで。「おい、どないしたんや、急に止まって」
道子「私、よう行かん。これ以上、よう行かん」
幸男「何言うてんねん。お母さんのアパートまで、あとちょっとやないか」
道子「死んでるかもしれん。崩れたアパートの下敷きになって、死んでるかもしれん。もう手遅れかもしれん。やっぱり無理してでもきのう来るべきやった」
幸男「きのうは無理やったて。めちゃめちゃになった家、片づけて、うちの親父とお袋を避難所まで迎えにいって、それで精一杯やったやん」
道子「けど…一人で寂しく、あの世に行かせてしもたかもしれん…」
幸男「そんな風に決めつけるな!あのお母さんが、死ぬはずないやろ。お前と違うて強い人なんや。おれらが結婚してからは、ずっと1人暮らししてはるんやぞ。もっと言うたら、お前が2つの時にお父さんがなくなりはってから、女手一つでお前を育ててきはったんやぞ。そんなお母さんが、簡単に死ぬかっ!」
道子「…(微かにすすり泣く感じ)」
幸男「おお、行くで。安心して、ついてこい」

母・語り「幸男さんは、道子より10才年上で、身長が180 センチもある頼もしい旦那さんです。道子は、自転車を漕ぐその後ろ姿を見て、ぐっと勇気を奮い立たせました。そして、漕ぎつづけました。しかし、道子が甲東園の駅にたどり着いた時に見たものは…」

道子「ぎゃーっ!いやーーーっ!!お母さん、お母さーーん!!(泣)」