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雅彦「もう、完全にだまされたちゃったよ、僕。お父さんにまんまとやられた。僕がこんなに一人でつらい思いしてるのに、今頃、2度寝してるんだろうな。いや、朝っぱらからもうビール飲んでるかも知れない。ったく」
●雨が弱まり、止む
雅彦「あれ?雨、やんだみたい。助かったぞ!よし、今のうちに早く帰ろう」
●外に出て驚く雅彦
雅彦「ああああーーっ!なんだこりゃ!赤い土から、白い煙が出てる。靄(もや)がかかって、何にも見えないぞ。どっちへ行ったらいいか、全然分からないや。ああ、どうしよ。元々、竹やぶなんて同じような眺めだから、方向がよく分からなかったのに、こんな靄(もや)までかかるなんて。何も見えない。本当にやばい…どうしよ。落ちつけ、落ちつけ…」
●どきどきする雅彦
雅彦「この竹やぶは、そんなに大きなものじゃないから、遭難することはないだろう。とにかく、真っ直ぐ行ってみよう。竹やぶから出さえすりゃあ、大丈夫だから、その最短距離を行こう。ああ、青竹もらわなくちゃ。えーと、これがいいな。じゃあ、前進!」
●なかなか出口の見つからない雅彦
雅彦「どっちだろ。左は地獄って書いてあったけど、どこのことかな。あーっ、あたたた、ひでえ。道がどろどろじゃないか。くるぶしまで入っちゃった。新しい靴が台無しだよ。お母さんに怒られちゃうなあ。まったく、12才の子供が、どうして1人きりでこんなに頑張らなくちゃいけいなんだよ。お父さんは家でグータラしてるっていうのに。情けないよ」
祖父「雅彦ー、おるか?おるなら返事せえ。おらんならおらんで、返事せえ!おーい」
雅彦「あっ、おじいちゃんだ。こんなになるまでほっといて、もう」
祖父「おーい、雅彦、おらんか?」
雅彦「なんだよ、それ。むちゃくちゃな聞き方じゃないかよ。雅彦はおらんでー」
祖父「うん?下手くそな関西弁やな。雅彦や。大丈夫か?」
雅彦「何とか、生きてるよ」
祖父「何やそのカッコは、どろどろやの。かはははっ」
雅彦「当たり前じゃん!いきなりこんな慣れてない竹やぶにほうりこまれて。僕がどれだけ大変な目にあったか、分かってるの!」
祖父「ええ経験になったやろ」
雅彦「冗談じゃないよ。なんだよ、この道は。ひでえなあ。何でこの辺は、舗装してもらえないんだよ」
祖父「舗装してもらわれへんのやなしに、舗装してへんのや。竹やぶにアスファルトの道なんか造ったら、竹の子の芽が痛むないか。それにな、アスファルトなんか突き破って成長するぐらい、竹の子は頑丈やねん。恐ろしいぐらいやで」
雅彦「だけど、こんなの道じゃないよ」
祖父「なにいうてんねん。これかて立派な道や。それどころか、本来、道いうんは、こういうもんなんや。雅彦にとって道いうたら、アスファルトで舗装した道かもしらんけどな」
雅彦「どういこと?道って、機械で土を掘ったりして、切り開いて造っていくものじゃん」
祖父「お前は、獣道を知らんのかいな」
雅彦「何それ?」
祖父「今、わしらが歩いている道が獣道や」
雅彦「えっ、や、やっぱりここ、熊とか出るの?」
祖父「はははっ、大丈夫や、熊は出えへん。狸やら犬やらが通る道や」
雅彦「何でこんな道を通るの?早く外に出て、家に帰ろうよ」
祖父「今、山の外に向こてんねん」
雅彦「嘘。だって、遠回りしてるような気がするよ。山の奥に入って行ってるんじゃないの?なんか、周りに木とかいっぱい増えてきてるし」
祖父「そやから、獣道なんや。動物たちが、何べんも行き来するうちに、草木が生えてこんようになって、自然の道ができたんや。そこをわしら人間も利用するようになって、地面が固うになったちゅうわけや。ほら、見てみい、ここの土は抜かるんだり、してへんやろ」
雅彦「ほんとだ。おじいちゃんの歩いてるところは、ちゃんとした道だね。僕もその後、ついていったらいいんだね。それと、おじちゃん、サルダル履きなのに、あんまり汚れてない」
祖父「道はな、人間だけが造るもんとちゃうで。ずっとさかのぼれば、獣が造ったものなんや。何回も踏み固められて出来上がったんや。相撲の土俵づくりなんかも同じやなで。上から何回も叩くねん」
雅彦「だけど、絶対、アスファルトの道の方が安全だよ。少なくとも、こんなに汚れることはないよ」
祖父「そんなこと言うたら、おとんが泣くで」