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雅彦「どうして?」
祖父「昔な、お前みたいに、この道を舗装したらどうかて言うた市会議員がおったんや。この山にはな、石清水八幡宮いう源氏の神さんを祭った神社があるんやけどな、その参拝客のために、道を整えた方がええんちゃうか、いうてな」
雅彦「でも、却下されたんだね」
祖父「いや、採用されたんや」
雅彦「でも、ここ、土の道じゃん」
祖父「ここはな。けどな、この先にいくと、舗装になるんや。途中まで舗装されたわけや」
雅彦「予算不足だったの?わが家の夏の旅行費用みたいだな、はははっ」
祖父「そういうわけやないんや。途中までして、これはやっぱりおかしいんちゃうかていう話が出たんや。この道は元々土や。何百年も前からな。それを壊すんはどないやってことになったんや」
雅彦「でも、昔のものにこだわってばかりじゃあ、原始時代の生活しなきゃいけないじゃん。住みやすくなるんだったら、変わることも必要じゃないの」
祖父「変わってもええことと、変わらんでもええことがあんねんぞ。お前、きのう、東京から高速で走ってきたやろ。あれは必要や。けどな、例えば、こんな山の中には高速はいらんやろ。それと同じや」
雅彦「高速はいらなくても、舗装はいるよ。僕は、ここ、すごく歩きにくいんだよ」
祖父「それはお前が山道を歩き慣れてへんだけや。わしらにとっては、舗装されてしもては、もう山道やのうなるねん。山道やけど、山道やないんや。分かるか?」
雅彦「…よう分からん」
祖父「ほうか。ほたら、あとでおとんに聞いてみたらええわ。あいつはな、昔、ここが舗装されるて知った時に、地元の青年集めて、反対の集会開きおったんや」
雅彦「えっ?おとんて、僕のお父さんが、そんなことしたの?」
祖父「そや。すごかったで。反対の嘆願書を集めたりな、この竹やぶの入口に居すわって、工事でけんようにしたりな。立て札立てて、反対運動やってたわ」
雅彦「立て札…あっ、ねえ、それって、右は天国、左は地獄って書いたやつ?」
祖父「おお、そや。よう知ってんな」
雅彦「さっき、小屋の中にあった」
祖父「ほうか。まだ残ってたんか。あの頃のあいつにとっては、この道が舗装されたら、地獄やて思えたんやろな」
雅彦「あのお父さんが、そんなことしてたなんて。若い頃はかっこよかったんだ」
祖父「舗装した道は、今の時代には絶対必要や。ここよりもっと田舎にも、舗装した道が必要なところは必要や。けどな、変わらんでもええものもあんねん。変わってしもたら、もう戻らんへんもんもあんねん。都会っ子の雅彦には分からんかもしらんけど、こんな不便な道を必要としている人間もおることだけは、知っとき」
母・語り「こうして雅彦は、おじいちゃんに連れられて、無事に竹やぶの外に出ることができました。おじいちゃんと一緒に歩きだしてからは、ほとんど靴が汚れることもなく」
     *****
雅彦「ただいま、お父さん、今、帰ったよ」
父 「んん?おおー、お帰り。あー、うとうとしてたわ」
雅彦「またビール飲んでたの?」
父 「ちょっとだけな。あしたは運転せなあかんから、飲まれへんし」
雅彦「そうだね。飲酒運転は絶対、だめだもんね。飲まなきゃ天国、飲んだら地獄」
父 「はっ?ああ、さっき、お母さんから電話あったんやけど、お前、テーマパーク行きたかったんか?雨でも楽しいとこなんや、とかなんとか、えらい言うてたらしいやんか」
雅彦「うん。けど、今回はもういい。雨の竹やぶも結構、楽しかったから。テーマパークは来年行く」
祖父「おっ、来年も来てくれるんか、雅彦」
雅彦「来年は中学だから、1人で来ようかな。それよりお父さん、竹細工、教えてよ。これ、取ってきたんだ」
父 「よしゃ。おお、こりゃええ竹やないか。教えたろ」
母・語り「行きたくても行けなかったテーマパーク。思わぬ長居をした八幡の竹やぶ。でも、そこで、山道をスイスイ歩くおじいちゃんのカッコよさ、話に聞いたお父さんのカッコよさを知って、ちょっと嬉しくなった雅彦の夏休みでした」(了)