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雅彦「えーっ、僕が竹を取りに行くの!?嘘でしょ。おじいちゃんが取ってきてくれたんじゃないの」
祖父「自由課題で竹細工するんやろが。それやったら、自分で竹林に入って、竹取ってくるんが当たり前やないか」
雅彦「そんなあ、詐欺だよ。東京で竹、買えばよった」
祖父「八幡の竹はええで。なんせ、あのエジソンが使うたほどなんやからな」
雅彦「知ってるよ。この前、おじいゃちゃんに電話でそう言われたから、自由課題は竹細工にしようって決めたんだよ。学校でも習ったんだ、エジソンが電球を発明した時に使ったフィラメントは、京都の竹だって」
祖父「八幡の竹や。お前のおとんの生まれ故郷の竹や。おとんはな、子供の頃、毎日、この竹やぶん中で遊んでんぞ」
雅彦「真っ直ぐな竹に囲まれて育ったわりには、テレビで野球見ながらビールばっかり飲んでる、軟弱な人間だけどね」
父 「おおう、雅彦。もう起きてたんか。今、呼んだか?」
雅彦「別に。それよりお父さん、おじいちゃんたらさ、僕に竹やぶんなか入っていって、竹取ってこいって言うんだよ」
父 「そうか。八幡の竹は日本一やからな。弾力性があって、いろんな使い道があるんや。おお、春におじいちゃんから、タケノコ送ってもろたやろ。あのうまいタケノコが成長した竹や。贅沢やで、そんなんで竹細工するんやからな」
雅彦「八幡の竹がいいことは分かったよ。でも、僕1人で竹やぶに入っていくなんてさ…」
父 「おじいちゃんに道聞いて、気ぃつけていき。はーあ、もう一眠りしよ」
雅彦「ああ、ねえ、お父さん、あしたはもう東京に帰るんだからさ、今日の午後からさあ…お父さーん」
祖父「はははっ、夕べ、ちょっと飲みすぎたみたいやな、まだ眠いんや。おお、雅彦、ほな、行ってこい、竹取りに」
雅彦「…どうやって行くの?」
祖父「藪の入口まで連れていったるさかいな、そこを入れ。大きなクスノキが見えたら右に行って、竹林に入って、落石注意の看板を左や。ほたら、すぐにトタン屋根の小屋が見えるわ。そこに、きのう、わしが竹を切って置いといたったさかい、好きなん持って帰っておいで。分かったか?」
雅彦「そんな説明じゃあ、ちょっとも分からへんわ」
祖父「けへへへっ、変な関西弁や」
雅彦「ねえ、藪の中で、何か変なもの、出てこない?熊とか蛇とか」
祖父「大丈夫や。その竹林は知り合いの竹林なんや。わしも、お前のおとんも、何千回と入っとるけど、熊なんか見たことない。蛇は、ひょっとして…」
雅彦「えーっ、蛇出るの!嫌だよ、そんなの僕」
祖父「ここらの蛇に噛まれたかて、死なへんさかい、安心せえ。お前、案外、気ぃ小さいな」
雅彦「お父さんに似たんだよ。それに僕は東京の都会育ちなんだから」
父 「(遠くから)えーっ?今、呼んだか?」
雅彦「何だ、まだ起きてるのか」
祖父「よしゃ、ほな出発するで」
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●一人で竹やぶを進む雅彦
雅彦「あいたっ!くそっ、また擦りむいた」
●藪蚊が飛ぶ
雅彦「ああ、もうしつこい藪蚊だな。こんな大きなの、見たことないよ。たくさんいるし、これじゃあまるで、蚊柱だよ。Tシャツに短パンなんかで来て、完全に失敗だった。早く帰りたいよ」
●夕立が降り始める
雅彦「やばい、土砂降りの雨だ。何でこんな夕立みたいなのが朝から降るんだよ。早く小屋まで行って、雨宿りしよう」
●だんだん激しくなる雨
雅彦「はあ、はあ、はあ…もう、全身びしょ濡れだよ。雨なのか汗なのか、分かんない。あっ、あった。小屋だ。青竹が3本、立てかけてあるけど、これがおじいちゃんが切った竹かな。取りあえず、中に入って、雨宿り」
●小屋に入る雅彦
雅彦「何だよ、この小屋。隙間だらけの超安もんじゃん。こんなんじゃあ、いつ崩れてきてもおかしくないぞ。やばいなあ。僕、崩れた小屋に閉じ込められて、飢え死にするかも知れない。この分だと、昼までに戻れないし、テーマパークだって行けないよ。もうさんざんな夏休みになったなあ、今年は。それに、ここ、何かうす気味悪い…ああっ!びっくりした。なんだよ、ロープか。蛇かと思った」
●立て札を見つける雅彦
雅彦「ん?なにこれ?変な立て札が転がってる。右は天国、左は地獄…左ってどっちなんだろ。ああん、益々気味が悪いよ」
●鳴り響く雷鳴
雅彦「ギャーッ!誰か、助けて…」
母・語り「篠突く雨、鳴り響く雷鳴。雅彦はトタン屋根のみすぼらしい小屋から、一歩も動けなくなってしまいました。恐怖と、テーマパークに行けそうもなくなった絶望感で、すっかり無気力になっていました。果して、雅彦は無事に竹を持って帰ってくることができるのでしょうか」