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全国車いす駅伝のゴール地点となる
西京極陸上競技場
●木枯らしの中、昔の父との思い出が脳裏をかすめる哲
 アアアーッ、たた、助けてー!誰かーー!助けて!!落ちてしまう!
陽介 (遠くから叫ぶ感じ)哲ー、哲ー!て、哲!頑張れ、今、助けるから、しっかり捕まってろ。その草から、絶対に手ぇ離すなよ。離したら、崖の下まで落ちでまうで。
 父さん、早く。もう、僕、限界や。
陽介 頑張れ。ほれ、右手で草に捕まったまま、左手で父さんの手ぇつかめ。はよ、左手延ばせ!
 うっ、うううううっ。
陽介 もうちょっと、もうちょっとや。ここや、この手つかめ!よっしゃっ。いよいしょっと。
 いよっいしょ。
陽介 ふーぅ。大丈夫か。
 う、うん

●回想から醒めて
 父さん…
 テッチーン!(近づいて)やっぱりここやった。もう、そんな薄着のまま、自転車で飛び出すやなんて。凍えてしまやん。はい、コート着て。さ、帰ろ。自転車、私が引っ張っていくから。
 うん。ありがとう。
 ねえ、1人で座り込んで、何考えてたん?
 あっ、いや、別に。ちょっと、昔のこと、思い出しててん。ほ、ほら、僕、小さい頃、冴ちゃんが住んでたアパートに、1人で遊びに行ったことあったやん。その時のことや。
 あった、あった。暑い時やったな、あれ。
 うん。後で聞いたけど、母さん、心配して後つけてきたらしいやん。ほんで、冴ちゃんも、炎天下で背伸びしながら待っててくれたんやてな。
 バレたか。けど、懐かしいわ。私も1人暮らし始めたとこやってん、あのころ。
 あのまま花屋の店長さんとこ、嫁に行くはずやったのに、太秦の家に戻って、花屋さんも辞めてしもて、父さんの面倒見させられるやなんて、ひどいわ。何考えてんねん、父さん。妹いうたかて、義理の妹や。他人に自分の面倒みさせるやなんて。冴ちゃんの青春を返せ、ちゅう感じや。
 えへへっ、もう30超えてるちゅうの。
 最近、店長さん、ご飯食べに来いひんな。
 …あぁ、お供えの花やけど、今度、奮発してカサブランカにしょうかな。
 奮発してて、お花、わざわざ買わなあかんようになったん?
 今日、結構、忙しいな。塾の生徒らとも、あさってのこと、打ち合わせせなあかんし。
 結婚式、延ばしたん?
 そや、レース、あさってちゅうことは、お兄さん、あしたにはもう行ってしまうんや。今日中にゼッケン、付けとかなあかん。
 ちぇっ、何も答えてくれへん…なあ、冴ちゃん。最近、何で髪切ったん?似合うけど…
    ***
●パソコンに向かう哲
 昼間の日記の続きを書きます。家に戻って、遅いお昼を食べて、テレビを見ていると、夕方になりました。そうすると、アイツが僕を呼ぶのです。
陽介 おーい、哲。ちょっと見てみ。どや、このレーサー、総チタン製やで。ま、次のレースはもらったな。
 なんぼしたん?
陽介 全部で50万ほどや。
 車椅子が50万。中古車買えるんちゃうか。
陽介 ただの車椅子やない。競走用の車椅子や。レーサーや。
 どうせそれかて、母さんの保険金で買うたんやろ。どんだけ母さんをコケにすんねん。レースか何か知らんけど、自分の好きなことで毎日大騒ぎして、何の反省もないやないか。今では学習塾の経営者やてふんぞり返ってるけど、それも、義理の妹を利用して身の回りのことさせてるから出来てることやないか。一体、お前は何様のつもりや。
 (哲を叩いて)ええ加減にしい、テッチン!
 何でや!?くそっ、好きにしろ。
 僕は冴ちゃんに思い切りひっぱたかれました。一瞬、家出も考えたけど、1日に2回も家出するのも能がないから、やめました。夕食が、好物のトンカツだったため、それを食べ、風呂に入ると、もうどうでもいい境地になりました。この家は、もう僕にとって言葉の通じな外国と同じ。留学したと思って、目と耳と心を塞いで生きよう。そんな風に考え始めたら、アイツがさっきのことを引きずってか、気まずそうな顔で話しかけてきました。
陽介 哲。あさってやし、な…
 何が?
陽介 ……
 車椅子駅伝の応援。前に言ったやんか。
 ははん、あさってって、そういう意味か。昼間、塾の生徒と打ち合わせする言うてたの、ひょっとして、応援に駆り出させようちゅう魂胆か。塾へ勉強しに来てる人間に、自分の趣味の応援に来させるやなんて、なんちゅう先生や。
 ちゃうちゃう。あの子らみんな、自分から応援に行くて言いだしたんよ。テッチンも、頼むな。
 残念ながら、日曜日にはやりたいことがいっぱいやし。ああ、冴ちゃんも、店長さんとデートしたらどない?ねえ、店長さんて…
●電話が鳴る
 (話題を逸らすように)ああ、電話、電話。
陽介 大丈夫や、こっちで出るから。はいはい。ああ、どうもどうも。えっ?ほんまですか?はい、はい、はい…そうなんですか。ちょっと待ってくださいね。
 お兄さん、どないしたん?
陽介 棄権者が出て、順番が変わるそうや。俺にアンカー走れて。
 アンカー?えーと、パンフ、パンフ。ああ、これや。アンカーいうたら、5区やから。えっ、ここ…
 あかん!そんなとこ走ったら、絶対あかん!あかん、あかん、あかん、あかん、あかん!!!!!!」