ホーム パーソナリティ紹介 これまでの放送-放送日から検索 これまでの放送-地図から検索 番組あてメール ラジオ大阪

今回は国土交通省近畿地方整備局が実施した2005年度の「近畿」と「みち」をテーマにしたショートストーリーコンテストで、最優秀賞を受賞した「ぼくたちのまがりかど」をラジオドラマにして放送しました。そのシナリオ(抄録)を掲載します。


作・奥山真理 脚本・北原義敏 演出・宇田川秀樹 出演・木地谷俊行 岡崎陽一 稲野一美 佐々山洋一

 


京都市 西大路五条
●窓の外で哲の父・陽介が仲間と筋トレ
● 勢いよくカーテンを引く哲
 ちぇっ、相変わらずええ気なもんやな。朝っぱらから
●哲、パソコンに向かいながら
 テッチン日記「ねくすとしーん」。2月24日、今日からこのブログで、僕の日記を書くことにしました。名前は哲、だからテッチン。京都の太秦に住んでいて、年齢はティーンエイジャーとだけ言っておきます。詳しくはプロフィールを見てね。タイトルが「ねくすとしーん」だからと言って、映画の評論を書くつもりはありません。映画のこと、とびきり詳しいわけでもありませんし。ただ、あの悪夢のようなシーンから、早く抜け出したくて…
●急ブレーキ音、衝突音(交通事故)
 僕の母さんは、2年前、今、仲間と筋トレに励んでるアイツに殺されました。その日、僕たちと映画を見に行く約束をしていた母さんを、アイツは、来たばかりの外車に無理やり乗せて、ドライブに連れ出したのでした。慣れない新車、初めての左ハンドル、そして、一瞬の居眠り。母さんは即死、アイツも下半身不随の障害が残る大ケガを負いました。本当なら、楽しく映画を見ているはずだったのに、僕は地獄のようなシーンを見せつけられたのです。
 テッチン、テッチーン。(ノックして)入るよ。何や、居てるんやったら、返事ぐらいしてよ。ああん、もう、明るいうちからカーテン締め切って、何してるん。
●カーテン開ける冴
 うわっ、外、寒そう。窓ガラスの結露が、流れてるわ。
 アイツらの筋トレの声聞いて、窓も涙流してるんや。
 「(ため息ついて)アイツやないでしょ。お父さんでしょ。
 2年前まではね。
 テッチン、ここんとこ変やね。
 冴ちゃんこそ変や。その母さんの写真、見てや。元々、ダイニングテーブルに置いてあったのに、父さんの「こんなん、どっか持って行け」の一言で、ここに押し込められて、もう1年になるんやで。冴ちゃんは、実の姉を殺されて、写真もどかされて、どうもないんか。
 お兄さんはね、1年も入院して、やっとこの家に戻れたのはええけど、体が思うようにならへんから、ついイライラしてしまうことがあるんよ。事故の前まで、大きな予備校でカリスマ講師て呼ばれて活躍してた自分の姿かて、どこにもない。それも実感して、辛かったんよ。
 そんなん、自業自得や。カリスマ講師かなんか知らんけど、教え子の入試が済んだらすぐに外車乗り回そうやなんて。偉そうに。
 そんなこと言うけど、教え子たちの全員の入試が終わるまで、ろくに寝んと、アドバイスし続けてたらしいよ。カッコつけてるどころか、もう体、ボロボロやったて。
 そんなん、居眠り運転の言い訳にならんわい!第一、その外車、母さんが反対したのに、自分の生命保険を解約して買うたんやろ?それに、この前、福祉のおっちゃんが言うてたけど、家をバリアフリーにした費用、母さんの生命保険のお金やってな。
 バリアフリーにするのはしゃあないでしょ。生活に支障来すんやから。
 そうかな。毎日大声でゲラゲラ笑うて、筋トレやって、ムキムキになって、えらい楽しんでるように思えるけど。
 (もう一度ため息)なあ、もうちょっとしたらお昼ご飯やから、取り敢えず下に行こ。
 あんなヤツと一緒に、ご飯食べとないわ!こんな家、もうまっぴらや!
 テッチン!
●飛び出して行く哲