ホーム パーソナリティ紹介 これまでの放送-放送日から検索 これまでの放送-地図から検索 H15/3までの放送 番組あてメール ラジオ大阪

 




ドラマ収録風景
母・語り「結局、娘夫婦は、戻らぬ私に、持って来てくれたリンゴ1個と置き手紙を残して、私のアパートを出ました。しかし、再び国道2号線に戻った2人は、西へ戻るのではなく、東へとペダルを踏んだのでした」

道子「なあ、ここ、もう尼崎に入ってるん?」
幸男「入ったとこやな」
道子「どの辺まで行ったら、食料と水、手に入るやろ」
幸男
「分からんな。ラジオのニュースでは、大阪は被害が少なかったみたいやけどな」
道子「大阪までは行ってられへんのとちゃう?人も車も、さっきより増えた感じやし。自転車でも、これ以上行くの、難しなってきたわ」
幸男「これだけ車が動かんかったら、救援物資なんかも、なかなか来んやろな。食料も、薬も、防寒具も、不足してくるで」
道子「道て大切なんやな。命の道や」
幸男「おい、あれ、ダイエーちゃうか?オレンジ色のマーク、見えてるやろ。ほれ、あそこや」
道子「あっ、ほんまや。何や、営業してる感じやな」
幸男「おお、そや。袋持って歩いてる人、いてる。よしゃ」
道子「砂漠でオアシス見つけたら、こんな気持ちかな」
幸男「なあ、入口の横で、お好み焼き売ってるで。たこ焼きもあるな」
道子「はあ、もう1時や。朝から半分潰れたバナナ1本しか食べてへんし、お腹すいたわ。買い物の前に、ちょっと食べて温もろ」
幸男「おお、そうしよ、そうしよ」

<ダイエー店外にて>
道子「美味しい。こんな美味しいお好み焼き、食べたことないわ」
幸男「ほんまや。元気出るな」
道子「みんなにも温いもん、食べさせてあげたいなぁ。けど、ガス止まってるし。電気だけでも来てたら、チンできんねんけど」

<ダイエー店内にて>

幸男「うわ、店ん中、えらい人やな。レジも長蛇の列や」
道子「みんなぎょうさん買うてるから、レジ、ちっとも進まへんのや。どないしょ。日ぃ暮れるで」
幸男「おれがレジ並んでるから、お前、買いもんしてこい。おれがどの辺まで進んでるか、ちょろちょろ見ながら、時間の許す限り買うたらええから」
道子「あっ、そうか。そないしたらええのか。分かった

    
道子「はあっ、ぎょうさん買うた。商品があるだけでも、何や嬉しなってきて、手当たり次第に入れてしもたわ」
幸男「まだ買えたで。ここからやったら、レジまで30分はゆうにかかるわ」
道子「いや、もう買うもんないわ。充分やから、私も並ぶ」
幸男「そーか。よしゃ、ほなな、お前、これ清算しとけや。おれ、ちょっと行ってくるから」
道子「どこ行くの?トイレ?」
幸男「ちゃうちゃう。カセットコンロを探しに行ってくる。さっき通りがかった店員に聞いてんけど、ここは売り切れらしいわ。そやから、そこら探してくる。30分ほど探して見つからへんかったら、戻ってくるし、レジ済んでてもちょっと待っててや」
道子「うん、分かった。気ぃつけてね」
幸男「おお」
*レジを済ませた道子
幸男「おお、銭、払うたんか」
道子「あっ、お帰り。今、ようやく終わった。袋詰めもほとんど終わりがけ」
幸男「グッドタイミングやな。おれも根性で見つけてきたで、カセットコンロ」

道子
「あったん!?どこで見つけたん?」
幸男「結局、杭瀬まで行ってきたわ。どこも売り切れで、あきらめかけててんけど、杭瀬の大きな市場の中の金物屋に、最後の1つがあった。みんな、考えること一緒や」
道子「よかったな。最後の一つ取ってしもて、ちょっと悪い気もするけど」
幸男「まあな。けど、我々には、もう一仕事あるで。この荷物をリュックサックに詰めて…」
道子「このけんまくの荷物背負って、自転車うまく、乗れるやろか」
幸男「甘いわ。外見てみい」
道子「ふわーっ、人でいっぱいや。自転車、どっちみち乗ることできへんわ、これやったら」
幸男「そや。押していくことも難しいな。裏通りも同じやで」道子「どないする?こんなん、いつ家にたどり着けるか分からへんわ」幸男「残された道は一つや。普段は絶対に通られへん道を通っていこ」
道子「えーっ?どこそれ?」

阪神高速神戸線復旧後の国道43号
  
道子「なるほどね、線路を行くわけね。電車止まってるし、今日は安心して通れるわ」
幸男「貴重な体験やで」
道子「こないして自転車は押さなあかんけど、行きも、2号線で自転車漕いで行くより、こっちをこないして歩いた方が早かったかもしれんね」
幸男「かもしれんな。さすがにこの道を歩く人は少ないから、すっす行けるしな」
道子「そういうたら、きのう、ラジオで聞いたわ、地盤が固い線路が一番安心やいうてテントを張ってる人がいてるて。家が無事やった人も、余震が恐いから、来てるんやて」
幸男「アウトドアブームも、こんなところで役立つんやな。我が家も、今日は鍋もんしよな、さっきのカセットコンロで」
道子「体も心もぬくぬくやね」
幸男「うん。それにしても、お前のそのぱんぱんのリックサック姿、終戦後の買い出しみたいやな」
道子「自分かてそやんか」
2人「(笑い)」
道子「幸男さん、なんか背中、大きく見える」
幸男「えーっ?リックサックが小さいいうことか?もっと担げいうてんのか?」
道子「そういうことやないの。はあ、どうも寒い思うたら、手袋するの忘れてたわ」
幸男「おお、自転車抑えといたるから、出し」
道子「うん。えーと、手袋、手袋。あった。はっ!」
幸男「どないしたんや」
道子「この手袋、美紀ちゃんが去年の私の誕生日プレゼントしてくれんやった。忘れてた。むっちゃ温い!」
幸男「おい、はよ、自転車、自転車」道子「あっ、はいはい」(了)