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  ビジネス拠点だった、丹鶴城。    

 
丹鶴城跡から見る熊野川
 熊野速玉大社から東へ1kmほど、やはり熊野川沿にある「丹鶴城跡」に来ました。川に面したところに石垣がある、珍しい城跡です。今、発掘調査中のため、これから新たな発見があるかもしれないという状態です。周辺は、丹鶴城公園として整備が進んでいます。先程のお話にもありましたが、熊野川では、舟運(しゅううん)が盛んに行われていましたが、この丹鶴城がいわば物流拠点になっていたのだそうです。そのあたりについて、新宮市教育委員会熊野文化振興室の学芸員、山本殖生(しげお)さんにお話を伺いました。このお城は、「新宮城」とも「沖見城」とも言いますが、なぜ「丹鶴城」と言うのでしょうか。
「ここは元々、丹鶴山東仙寺というお寺があったんですね。速玉大社と非常につながりの深いお寺で、速玉大社の神様の本地仏(ほんじぶつ)を祭っていた。で、祭った人が丹鶴姫と呼ばれる源頼朝の叔母さんにあたる人なんですね。そう言う人がここで仏さんを祭っていたということで、丹鶴山と呼ばれ、その後、江戸時代になってお城ができたので、新宮城とか丹鶴城とか呼ばれるようになったんですね。なかなかロマンのある名前ですよね」


本丸があった石垣

 目の前に石垣が残っていますが、丹鶴城のどの部分にあたるのでしょう。
「この上が二の丸とか本丸があったところなんですけども、熊野川に面した北側の場所には、『水の手』という正に水辺に面した郭があり、重要な遺跡です。この丹鶴城は江戸時代に造られましたが、関ヶ原の戦いの後、浅野さんというお殿様がこちらへ入られてお城を築きました。浅野さんは19年間だけいて、その後は水野さんの時代になりましたが、引き続きお城を造り、大体1630年ぐらいにはお城が完成したみたいです」

 ここが舟運の物流拠点になっていた点について、詳しく伺いました。
「水の手と言われる、広い熊野川流域から炭を集めて、たくさんここにストックしたという遺跡が出てきたものですから、非常に注目されています。正に熊野川の水運や物流を象徴するような遺跡です。紀州・新宮の殿様は、『炭屋』というニックネームが付いているぐらい、江戸でたくさんの炭の専売を一手にやって有名になりました。熊野川流域にはたくさん炭の材料がありますから、それを焼かせ、川の水運でここへ持って来て、水の手に倉庫を20棟ぐらい造ってストックし、適宜、ここから江戸に向けて出荷をしたわけです」

 


炭納屋と船着場が発掘された現場

 なぜ炭が運ばれたのだと分かるのでしょうか。
「平成7年ぐらいに発掘調査をして出てきた遺跡の下に、炭の粉がたくさん落ちていました。倉庫として使っていた時に炭のかすが下に落ちてたまっていたということで、これはちょっと不思議な遺跡だと。やはり、炭の倉庫群だろうということが分かりまして、にわかにお城が経済利用された場所として注目されたわけです。江戸を中心に、大阪や名古屋にも、年間15万〜20万俵ぐらい出荷されていたようですね。『炭屋』のニックネームを持つ水野氏は、今で言う石油王みたいなもので、経済的な基盤も築けたことになります。城内にこういう経済拠点を造るのは、18世紀の初めぐらいから見られるようですが、平和利用のお城として全国から注目されていて、国の史跡にもなっています。江戸時代は徳川政権が安定していき、ほとんどお城は戦に使われなって、平和利用されることになったといことでしょう」

 


出丸

 舟運がうまくいってるかどうか、チェックもこのお城でされたのでしょうか。
「ここは、江戸と大阪を行き来する回船の一番の通行路でもありますから、回船を見渡せる海の見張りの城としても機能したんだろうと言われています。水の手の上の方に『出丸(でまる)』という遺跡があり、本丸から出っ張った郭がありました。川と海がよく見える場所ですから、おそらく舟運の見張り場所として使われたんだろうと考えられています」

 発掘調査で、これからもいろいろと出てきそうです。
「熊野川河口は、正に海と川の交差点、人と物の交差点でもあります。炭の倉庫群から、どんなふうにして舟に積み込んだのかなど、関連施設、付属施設については解明すべく発掘調査をしてるところです。なお、新宮城が国の史跡になりましたので、これをいかに保存し、調査をしながら後世に伝えるかっていうのが大事だということで、文化庁の指導により、行政や民間から関係者が集まって『整備検討委員会』を作り、今後の新宮城の整備や調査をどう進めていくのかを論議しています」




熊野川の川原家やお城への舟運といった歴史の話題で、タイムスリップした気分になりました。さて、10年以上にわたりお送りしてきました「近畿川ものがたり」は、今回で終了させていただくことになりました。長い間、番組を可愛がっていただき、ありがとうございました。