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   たった1人の船大工。 
 
谷上嘉一さん
 新宮市から熊野川を渡って三重県紀宝町に来ました。お邪魔していますのは、船大工・谷上嘉一(たにがみよしかず)さんの仕事場です。ヒノキのいい香りが漂う中、完成したように見える船があります。
「そうです、完成です。実は明日、船おろしです。お嫁に行きます」

  谷上さんは、熊野川流域ただ一人の船大工で、熊野川下りの船も造られています。熊野川の川船の特徴を伺いました。
「熊野川っていうのは、昔から日本一の暴れ川と呼ばれていましたよね。ですから、激流に耐えられるような形状や機能を持った船でないと困るので、まず底の部分がフラットです。そして、側面の部分と底の間にもう一つ斜めの面が付いていて、五角形のようになっています。その斜めの部分があるから、激流で船が横になっても、水を下に通して後ろへいなしてしまいます。主要部分、80%ぐらいは熊野杉の赤身を使い、船梁(ふなばり)や横のバンパー役の小縁(こべり)はヒノキを使います。頭とお尻、エンジンが乗る部分はケヤキです。体裁もいいし、結構堅いですから。一隻造るのに約2ヶ月かかり、費用は使う材料などで違いますが、奉仕の意味を込めて100万円ぐらいでしょうか。商売にはなりません」


新造船の舟おろしの様子

写真提供: 谷上嘉一さん
 熊野川の川船は、全国的に見ても優れた船のようです。
「全国の川船を調査されている、三重県鳥羽市の『海の博物館』の石原義剛館長から、『おそらく日本一だよ、こんな奇麗な船はどこへ行ってもないよ』っていう評価を受けています。機能面も美しさも、おそらく日本一だろうと私は思っています」

 日本一の船を造る谷上さんは、誰かについて勉強したわけではないとのこと。
「私はごく普通の、それも木には関係ない電気関係のサラリーマンをしていたんです。30年ぐらい前から趣味で船を造り始めて、それが高じました。自分で一回造ってみたくなって挑戦したんですけど、たまたま出来が良かったのか、それを見た皆さんから次々と注文をいただいて。これまで何十となく船を造ってますけど、完璧かなというのは二つか三つですね。どこか気に入らない部分が自分なりにあります。僕らが子供の時分には、この道路がなかったもんですから、川船が交通の手段としてなじんでましたんで、船や川へのこだわりや愛着が人一倍強いのかもしれないですね」

 

御船まつり
写真提供:
熊野学情報センター準備室

 熊野速玉大社の「御船まつり」の船も造られているとのこと。
「もう完成したんですけど。形状は普通の川船と少し違って、海の船の形をしてますよね。御船まつりは県の指定無形民俗文化財で、船は10月16日にしか使われません。今回は54年ぶりですか、船を9隻全部造り替えたんですよね。次は100年ぐらい後だと思います。船1隻に11人乗り込んで、新宮市の大橋の下からスタートして、御船島という熊野速玉大社の離れ宮を3周する競技が毎年行われています。私も過去、何十年も乗ってきました」
 

2回にわたって熊野川を満喫しました。自然に触れ、身も心も清められて、もう帰りたくなくなってきました。