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  海の絶景が楽しめる山道
 


大辺路
「長井坂」

 海から山へ。すさみ町は熊野古道「大辺路(おおへち)」ルートの町です。田辺から紀伊半島の中央を突き抜ける「中辺路」に対し、海沿いを回る大辺路ですが、海沿いばかりではありません。すさみ町には昔のままの大辺路がたくさん残っていますが、JR見老津(みろづ)駅近くに東の登り口がある「長井坂」もその一つ。山道で、入り口から急激な坂が続くため、横の県道を少し車で上がり、「茶屋の段」という場所から長井坂に入って歩くことにしました。お話を伺ったのは、すさみ町文化財審議委員会委員長の木村甫(はじむ)さんです。
「長井坂は、西の登り口の和深川から東の登り口の見老津まで、いったん上がって、平坦になり、そしてまた下るという、『台形』のような状態です。前後の坂はあわせて1kmあまり、平坦地は3km前後です。上り下りの坂は大変厳しいんですが、平坦地は腐葉土のふわふわした道で、しかも非常に眺望がいいんです。昔の文人墨客が『絶景』だと称賛したと言われるほど素晴らしい眺望です。『坂』と呼ばれていますが、一般的な『峠』に当たります」


長井坂からの絶景
 今日は東から西へ向かっていて、熊野のお参りの帰り道を歩いている気分です。茶屋の段から15分ほど登ると、目の前には視界が開けて海が見え、向こうの方に半島なども見えます。あれはひょっとして…
「潮岬ですね。今日は大変よく見えます。昔、厄年の人は、茶屋の段のところに飲み物や弁当を置いて、潮岬まで飲まず食わずで願掛けに行って帰りました。潮岬までは40kmぐらいあります」

 緩やかに下る歩きやすい道の左手には、いつ見ても同じ島が見えます。
「あの島は黒島で、手前の島を『陸(おか)の黒島』、沖の方にあるのを『沖の黒島』と言うんです。『緑の黒髪』なんて言うように、黒島は緑の生い茂った島という意味で、長井坂からは常に同じ角度に見えます。これは、黒島が扇の要に位置し、長井坂がその扇の縁、半円上を歩くような状態になっておるからです」


長井坂には案内もあって歩きやすい
 この道が歩きやすく、しっかり残っているのには理由があるようです。
「この古道が、実際に生活道として利用されておったのは明治40年代までですが、それからも電柱保全のために、毎年、電力会社が村の人を雇って草刈りや道の補修をしてもらっておった関係で、昭和30年代の終わりごろまでは、ほとんど昔の姿のまま残っておったということです。それ以後、ちょっと荒れましたが、今はまた熊野古道が脚光をあびて多少整理され、歩きよくなったということです。大辺路のうち世界遺産に登録されているのは、長井坂、すさみ町と日置川町安居(あご)をつなぐ『仏坂』、日置川町と白浜町をつなぐ『富田坂』の3ヵ所です。大阪の皆さんも、この長井坂へどんどん来ていただくようにお願いいたします」


大辺路の長井坂を歩き、文人墨客たちが称賛した絶景を見ることができました。腐葉土でふかふかの道は足に心地よく、昔の道と今の道のそれぞれの良さも実感しました。