近畿川ものがたり　2007.1.7　竜田川、大和川

　　　物流拠点だった、亀の瀬。　　　　＜亀の瀬の地図はこちら＞

大和川・亀の瀬付近

　竜田川が大和川に合流している地点から数km下流、大和川の北側が大阪府柏原市、南側が奈良県王寺町という境界線に来ました。北側の山の斜面は「亀の瀬」と呼ばれる地滑り地区で、大和川はこの辺りで幅を少し狭くしています。そんな治水上の重要ポイントであるここは、以前、舟運（しゅううん）でも節目となっていたようです。王寺町教育委員会の岡島永昌（えいしょう）さんにお話を伺いました。

「大和川の舟運は江戸時代初期から始まっていて、主に大阪の城下町から『剣先船』で荷物が運ばれ、ここで積み替えられて、『魚梁船（やなぶね）』や陸路で大和へと運ばれました。今はありませんが、ここには落差１～２ｍほどの『銚子口（ちょうしのくち）』という小さな滝があり、そのまま上流に行けなかったと考えられています」

藤井問屋で使われていた印鑑

　どんな物を、どんなふうに運んだのでしょう。
「干鰯（ほしか）や油粕など、大和国で使う肥料を主に運びました。剣先船は底が平たく、名前の通り先が尖っていて、長さ約17.5ｍ、幅約1.9ｍ。311隻が行き交いました。魚梁船は、剣先船より若干小さく、９枚のむしろを帆に使っていたと言い伝えられています。現在の三郷町にいた安村喜右衛門（きえもん）が、幕藩権力から権利を与えられて魚梁問屋を経営していました。荷物を積んでいくごとに手数料を取る荷継問屋です。三郷町と王寺町の境界に架かる大正橋の少し下流の浜から、田原本町の今里や大和郡山市の筒井、天理市の嘉幡（かばた）近くまでさかのぼりました」

　陸路では、どう運んだのでしょう。
「この亀の瀬には『藤井問屋』という陸路での荷継問屋があって、大和国の各村まで牛馬の背中に荷物を着けて運んでいました。荷継問屋にいる『仲仕（なかし）』が舟から上げた荷物は、『駄賃取り』と呼ばれる人たちが牛馬で運びましたが、駄賃取りは荷継問屋と雇用関係はなく、農家が農業の合間に副業でやっていたようです。柏原市の青谷（あおたに）、峠、国分にも荷継問屋がありました」

龍王社

　当時の形跡はなにか残っていないのでしょうか。
「この近くでは、『龍王社』という小さなほこらがあります。魚梁問屋が祭ったものと考えられ、ほこらの前には剣先船に乗って荷物を運んだ船人たちが奉納した灯ろうも残っていて、『剣先船船人中（ふなびとちゅう）』と書かれています」

　1704年に大和川は付け替えられています。
「付け替え前は、柏原市のところから北西方向に流れ、淀川と合流していて、それに沿って荷物が運ばれていましたが、付け替え後は大阪湾を経由し、木津川を通りながら大阪の城下近くまで行っていたと考えられます。その後、明治25年に湊町～奈良間で鉄道が開通し、舟運が衰えていきました」

大和川とその支流の竜田川を訪ねました。川の歴史を伝えていくためには、川に興味を持つこと、そして、その美しさを守っていくことが必要だと感じました。