福井県の若狭地方、上中町熊川に来た。琵琶湖の西を電車で通った際、滋賀の山々は雪景色だった。
虹も架かって幸せな気分だったが、峠を越えて福井県に入ると、道も山も畑も家の屋根も、
そして鯖街道の宿場として知られたここ熊川宿も真っ白だ。今回は、上中町を流れる北川を訪れた。

 

 

       <熊川宿の地図はこちら>



熊川自慢、水とくずのハーモニー。

北川は、昭和56年から20年連続で近畿の一級水系で
一番きれいな川に選ばれている。
本流30Hの、近畿の一級水系で最も短い川でもある。
この清流北川にはぐくまれた産物に、
「くず」と「こんにゃく」がある。

熊川でくずを作っている尾中健三さんに伺った。
 「ここに置いてある黒いのがつるで、茶色いのが根っこです」
根は曲がったような形で、太さは人の腕ほど。
 「腕以上あるでしょう。それをこの機械でかきむしる。
 付いている歯で、むしり取るちゅうんかな」

くずはどこにあるんだろうか。
 「山ですが、植林地にはありません。邪魔になるから、
 掃除に行ってみんな切るでしょ。だから奥の雑木林へ
 入らなありません。時期は12月から3月いっぱいまで。
 急斜面に生えているくずを掘ります。
 急斜面の方が掘るのに楽、下へ落とせるでしょ」

機械でかきむしってからはどうするのだろう。
 「桶に入れ、水をいっぱい入れます。
 水は、大きい方の桶が200リットル、
 小さい方が100リットル入ります。丸一夜置くと、
 くずが沈殿してあくは上におる。それであくを取り、
 沈殿したくずをまた砕く。あとは同じ工程の繰り返しです。
 20回はするでしょうな」

水はどこから引いてくるのだろうか。
 「これは自然の水。隣のこの谷から伏流水を引っ張っておるんです」
工場の裏側は山で、すぐそばには谷水が流れていて、
北川へと注いでいる。 あの水だ。それにしても、
20回もこの大きな桶の水を替えるとは、ものすごい量だ。
 「水の作業をするのも、これからの寒い時期。
 水の中へ手を入れるわけやないけど、氷が張っとるときもある。
 仕事で寒いと思ったことはありませんけどね」
寒さと大量の水だから、いいものが出来るのだろうか。
 「寒ざらしの名のとおり、寒い時期しかね。
 でんぷんですんで、発酵してしまうとよくない」

くず作りは、どれぐらいしているのだろうか。
 「おやじが死んでからですんで、10年ちょっとですかね。
 くず作りは、おやじが村おこしのひとつとして考えただけです。
 今は商売でやってもなかなか成り立たんですよ。
 ここは山国で、昔は炭焼きかこれしか仕事がなかったけど、
 今は9割以上がサラリーマン。
 ほんで、一時期、自然消滅してたんちゃいますかね」

20回も水を入れ替えてさらすと、どうなるのだろか。
 「不純物もあくも取れます。丸一夜置くと、下にでんぷん層、
 間や上にはまだ多少のあくが残るので、いらないものを捨てて、
 残ったのがこの白いでんぷん」

触ってみると、表面がつるつるだ。
 「自然乾燥やから、こうして手で持てる。温度を上げたら、
 もっと早く乾きますが手では持てません。ぱらぱらになるだけ」

工場の2階。棚にたくさんの白い豆腐大の石膏のような、
かちかちの物が並んでいる。
 「これが乾いたら製品になります。
 下でさらしたもんを乾かすのに2カ月かかります」

熊川のくずは、何が一番いいのだろう。
 「よう聞かれますが、やっぱり、水がいいんとちゃいますかな」


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福井県上中町を流れる北川水系


熊川くず生産組合代表・尾中健三さん


くずの根


出来上がったくず


ラジオ大阪