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待ち遠しい、落ちアユのなれずし。
私は無類のアユ好きだが、落ちアユは食べる機会が少ない。
そこで、ウナギ専門店「鹿六」でいただくことにした。
10センチ前後の小ぶりなアユで、落ちアユ特有のきれいな
色が腹に入っている。味も、とてもおいしい。
「天然ですから」と、作務衣で楚々とした「鹿六」の若おかみ。
この店は何代続いているのだろう。
「鹿六になって3代目で、100年近くになります」
新宮に1軒だけのウナギ専門店で、川魚もずっと扱ってきた
そうだ。熊野の落ちアユのなれずしを食べてみたいが、
まだ早い。話だけでも伺った。
「母が作っていますが、腹を掃除して卵を出し、きれいに
洗って、1カ月ほど塩押しします。それから徐々に取り
出して、塩抜きして、ご飯を炊いて詰めて、20日ほど
押します。お漬けもんぐらいの重しをかけて」
桶を見せていただいたが、風情があって結構大きい。
「40本ぐらい入ります。これが8個ぐらいあるかしら。
アユはシダと一緒にここで押します。
香りがいいからだと思います」
塩で押して、保存状態にしておいて、必要な時に
なれずしに仕込むわけだ。
「お米は、水を多く柔らかめにして、塩を入れます。
お米もこだわって、三重県のを使います。板をし、
重しをしてから水を張るので、中に水は入りません」
ただ、やはり発酵物なので癖はある。
「うちのは発酵が少ないのか、皆さんに召し上がって
いただいています。お酒が進んで、やみつきになりますね。
2月ごろまで食べられます」
この川は、アユだけじゃない。
再び浅田さんに伺った。「くだりウナギ」も取れるとか。
「私らはしませんが、『もんどり』という仕掛けで取ります。
竹筒に、ここで取った生きたアユを餌として入れるんです。
ウナギも産卵で海へ下ります。そのくだりウナギを
狙うんです。12月中頃まで取れますね」
モクズガニは、もう終わりだろうか。
「この辺ではズガニと呼びますが、もうほとんど終わりました。
8月末ごろから取ります。この辺の人はズガニが好きです。
テナガエビよりもおいしいですね。私はエビも取ります、
夏から秋にかけて。あとは、アメノウオという魚。
3年ほどたつと海へ行って、2〜3年で上ってくる。
それがサツキマスです」
降海型のアマゴだ。
「30、40センチ近くになります。アユ形の疑似針でなんぼ
でも釣れますよ。アユよりおいしいです。こりゃもう、
川魚では最高ですね。3月から解禁で、最盛期は5月です」
サツキマス(五月鱒)というだけある。
「この川は魚が豊富です。四万十川で有名なハゼも
どっさりいます。四万十川ではウグイも取るけど、
この辺で食べるのはハゼでもアユを餌にするアユカケだけ。
今ごろは脂をいっぱい持っとるんですよ。
昔はうどんのだしにしとった」
浅田さんは、子供のころからこの川がなくてはならない
存在のようだ。
「子供のころは泳ぎましたよ。そのころは 、
禁止区域やダムもなかったから。
今は子供のころの川とは全然違います。
アユなんかもう、いっぱいいたしね」

今でもこれほどきれいな川は珍しいと思うが、
もっときれいだったとは。この辺りは、
アユの揺りかごだったわけだ。
熊野川の豊かな恵み。浅田さんは、ほとんど無表情だが、
アユやウナギの話になると顔つきが変わり、少年のようだった。
やはり、川は人と共にあるのが本来の姿だと、しみじみ感じた。
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「鹿六」

「鹿六」のアユ

若おかみに「なれずし」の桶を見せてもらう

熊野川には川の幸があふれている

昔はもっときれいだったそうだ
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