紀伊半島南部、新宮市。熊野川がゆったりと流れる。
流れが豊かで、その水が砂地や石の明るい白とマッチして美しい、伸びやかな川だ。
上空の半分は雲で、うっすらと青空が見えている。今回は、川の幸に恵まれた熊野川にやって来た。

 

 

       <熊野川の地図はこちら>


「なでがけ」で落ちアユを狙う

熊野川は、正式には新宮川水系熊野川という。
以前、地図上では新宮川とされていたが、1998年から
地元で親しまれている熊野川になった。
雨の多さで日本屈指の大台ケ原を源流に、熊野灘までの183キロ。
流域が奈良県、和歌山県、三重県にまたがる川だ。
豊かな水が、瀬と淵を交互に造り出す。険しい山が続き、
水田がほとんどないため水が美しく、川の幸が豊富だ。

熊野川漁業協同組合の浅田尚さんに伺った。
川に随分と人が入っている。
 「アユの『なでがけ』です。大阪や関東では『ころがし』
 ともいいます。餌はなくて針と鉛だけです。あの瀬やったら、
 4匁(もんめ)か5匁の鉛と、7、8本の針を付けてます」

午後3時だが釣れるんだろうか。
 「産卵時期ですから、かかってると思いますよ。
 本当は、日の暮れかかる頃から朝まで釣ります。
 屋形船で釣れば、中で寝られますし」

一晩かかって、産卵に来た落ちアユを引っかけるわけだ。
 「大きいのは27、28センチ。小さいのは7〜10センチ。
 流れがきつく深いと、大きな魚が来ます」

産卵場所は決まっている。
 「アユは一年魚で、親が産卵した場所へ必ず戻るといわれています。
 ここへは毎年産卵に来ます。アユは賢くて、
 小さな石だと流れるので、大きな石の陰で産卵します。
 3、4個程度の石に卵を産みつけて、雄が白子を振りかけます。
 1週間で孵化して海へ流れ、三輪崎の湾や那智の浜の湾の中で
 育って、3月には、3、4センチ、大きいもので10センチ近くの
 稚魚になります。それが、早いアユだと1月、
 さらに2月、3月にだんだんと遡上し、11月に産卵して死にます」

サケに似ている。
 「産卵状況から水質まで、3月から11月にかけて河川の状況を
 全部調査しました。一匹で1万個の卵を産むそうです」

今年はまだ落ちアユが取れていないとか。
 「産卵を『付く』といいますが、今年初めて付いたのが10月16日。
 2キロほど上流の木ノ瀬です。その晩に取れました」

浅田さんは管理委員長をするなど多忙だが、
毎日、アユを取っているそうだ。
 「今日も上の木ノ瀬へ行きます。家でアユは食べませんけど。
 アユがおいしいのは6月の解禁時といいますが、
 本当は10月15日前後が一番おいしい」

落ちアユになる寸前だ。
 「『一夜付き』といい、一晩産卵して場所を変える。
 そのアユが最高です。卵もいっぱいで大きい」

体に赤線が入っているが、黒くはない状態だそうだ。覚えておきたい。
 「脂が乗って身が締まり、皮が硬くて、おいしい」

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熊野川


落ちアユ漁の屋形船


浅田尚さん(右)


落ちアユの漁場になっている中洲


ラジオ大阪