奈良県五條市、吉野川。大台ケ原から桜の名所・吉野を過ぎて西に流れ、
紀の川と名を変え、和歌山市を通過して紀伊水道に注ぐ。136Hもの川だ。
源流が日本で最も雨の多い大台ケ原のため、水量の多い川だ。
今回は、この吉野川で復活した「ヤナ漁」の話を伺った。

 

 

       <吉野川の地図はこちら>


1日500匹がヤナに。


吉野川の左岸、大川橋の下に立つ。「吉野川やな漁」の看板がある。
復活したヤナ漁について、五條市観光協会会長の山本陽一さんに、
まずはその仕組みから伺った。
 「鉄骨のパイプを敷き、その上に竹の網を敷いて、
 すのこみたいに下へ水が流れるようにします。
 そこに、上からやって来たアユや魚が引っかかって、
 手でもつかめると。メスは子持ちで非常に大きく、
 このヤナで捕れた最高が30.5Bです」
ヤナ漁の復活は、どれぐらいぶりなんだろう。
 「古事記や日本書紀に、五條のヤナ漁の記述があります。
 それ以降は、やっていただろうという推測はあるものの、
 記録はなく、ある意味で千数百年ぶりの復活と言えなくもありません」
どうしてヤナ漁復活を思ったのだろうか。
 「吉野川は、東隣の大淀町で大和平野の灌漑用水や
 県営水道水が取られ、五條市では水が少なくなっています。
 少ないと汚れます。だから、我々もこの吉野川から長く
 離れていました。でも、これではいかんと、
 5年ほど前から国土交通省を中心に、川へ下りやすく
 するための堤防改良工事などの事業が行われています。
 それにあわせて、漁業組合が中心になり、ヤナを作っ たんです。
 9月16日にオープンしました。最初は1匹・2匹でしたが、
 9月26日頃から1日500匹ぐらい落ちて来て、
 うれしい悲鳴を上げています」

吉野川自慢の、「サクラアユ」。

次に、五條市漁業協同組合理事の藤田正己さんと田枝文雄さんに、
アユ漁について伺った。2人はアユ漁に関わってどれぐらいなんだろう。
 「小学校からずっと川。もう40年越えます(藤田さん)」
 「66才ですが、小学校2・3年時分からずっとやってます。
 川も良かったので、天然アユがどんどん上って来て、
 短い竿でもかかったんですわ(田枝さん)」
天然アユを「海産」と呼ぶが、そのあたりを藤田さんに伺った。
 「アユは本来、海の近くで産卵します。水に乗って下って。
 それを捕るのがヤナですからね。それが今は水が少ないので、
 腹の子を大事にして動かずに、上流部で産んでしまうんです。
 でも、本当の天然アユは、海の近くの棚場で産んで、
 稚魚がいったん海に入り、2月か3月時分から上り始めるんですわ。
 それが上流でいい餌を食うと、胸に黄色い線が3本入るんですよ。
 『追い星』っていうんですけど、僕らは吉野の桜にひっかけて
 『サクラアユ』と呼びます。桜が咲く時分に、そういうアユの
 稚魚がこの辺を走り、それが大きくなって『追い星』を付けます」
ヤナには他の魚もかかっているようだ。
 「今やったら、ウナギもカニも引っかかります。
 ヒバチゴイもブラチックバスも(田枝さん)」
いい匂いがしてきた。
いろりで串刺しのアユを塩焼きにしている。 炭火だ。
 「半時間、1時間と、時間をかけるほど美味しいですわ。
 逆さにすると、余分な水分や脂が抜けて、
 上手く焼けるっていうね(田枝さん)」
炭火で焼かれたアユをいただいた。腹がぷりぷりで、
卵がはみ出すくらい。皮がぱりっとして香ばしい。
五條市漁業協同組合理事の高崎浩司さんに伺った。
 「2時間近く焼いているんで、水分が抜けておいしいんです。
 ヤナ漁に遊びに来たら、ヤナ漁でアユを捕まえるのは無料です。
 ヤナの上での遊びは無料。捕ったアユを焼いて食べられますが、
 そのときにいくらかいただきます。
 生きたものも1匹いくらで買っていただけます」
ヤナ漁復活をここまで実現させるのには、苦労もあったようだ。
 「本流のど真ん中にヤナをかけるために、
 水をせき止めるのが一番大変でしたね」

 

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復活したヤナ漁


山本陽一さん


このヤナに1日500匹ものアユが落ちる


左から藤田正己さん、田枝文雄さん、高崎浩司さん


水分が抜けるまで炭火でたっぷり時間をかけて焼く


ラジオ大阪