●インタビュー前半
藤原:NPO法人『ダンスボックス』の活動について、お教えください。
大谷さん(以下、大谷・敬称略):活動は、10年前から始まりました。コンテンポラリーダンスという新しいダンスの環境を良くしていこうと、アーティストとプロデューサーが集まって作った組織です。活動をやっていく中で、いろんな現代社会の問題にぶつかりました。今の子どもたちや若い人を見ていると、身体感覚が欠如しているなと感じるんですね。体でコミュニケーションをとるということが下手になってきている。そのために、ストーカーとか、引きこもりとか、自分の体を隠してしまう社会現象が起こっている。そういうことに対して、ダンスで何かできないかなということが、活動をしていく中で僕らの問題としても出てきました。
藤原:具体的には、どんなことをされているのですか?
大谷:まず、関西から世界に通用するアーティストを育てていこうということに取り組んでいます。これは三つのシステムを作っています。『ダンス・サーカス』、『ダンスボックス・セレクション』、そして『ワン−ダンス』とステップアップしていけるシステムです。はじめは12分間の作品を1日5組が発表する。これが2日から3日、年に4回やりますので、年間でおよそ50〜60組のアーティストがこの『ダンス・サーカス』で作品を発表することになります。これには審査はありません。申込み順で参加してもらえます。その中から年間、前期4組、後期4組のアーティストを選んで『ダンスボックス・セレクション』をやります。ここでは、12〜20分の作品を創ってもらう。さらに最後に『ワン−ダンス』では、1年に2組選んで1時間の作品を創ってもらう。こうした分かりやすいステップアップのシステムを作っていくことで、国内外で活躍できるアーティストを育成していこうと考えています。
藤原:今、お話にありました公演を通じた育成の他に、どんなことをされているのでしょうか?
大谷:いろんなことやっていますが、主にワークショップをやっています。これはダンスに限りませんが芸術の享受のあり様が、鑑賞中心から、参加型に広がってきているんですね。私たちがやっているワークショップは、一つはプロのアーティストを育成していくためのワークショップ。もう一つは一般市民がコンテンポラリーダンスの面白さを体験できるワークショップです。
藤原:それはどこで催されているのですか?
大谷:劇場でもやりますが、例えば地域の小学校であるとか、障害者の施設であるとか、声が掛かればどこにでも行ってやります。
●スタジオ
藤原:本当に幅広く、どこにでも行かれているようです。他にも国際交流事業ということで海外にまで行かれることもあるんだそうですよ。反対に海外のアーティストを日本に呼んできて、短期間ではなく、ある一定期間、大阪に滞在してもらって、関西のアーティストと交流してもらうというようなこともされているそうです。オランダの若いアーティストと、この地域の70歳以上の9人の高齢者の方が、一緒に作品を作るコラボレーションもされたこともあるのだとか。30歳前後の人と70歳以上の人とが、交じり合って一つのものを作るというのは、すごい試みだと思いました。基本はダンスがメインですが、歌を歌ったり、それを映像化していくというふうに、幅を広げて活動をされているようです。後半は、気になる盆踊り、『ビッグ盆!』についてお聞きします。
●インタビュー後半
藤原:新世界で、近々盆踊りをするという話を伺っています。
大谷:新世界に劇場を作ったのが2002年の10月ですが、その時から地域の中でダンスを展開していくというプロジェクトをやってきました。ところが、“コンテンポラリーダンス”といっても「何のこっちゃ?」みたいなところがあります。ですが、“盆踊り”は、知らない子どももいますけれども、ある程度の年齢以上の人だと共通して体験してきたことです。アートというものが気取ったものではなく、自分たちにとって分かりやすいものとしての仕掛けを、“盆踊り”という言葉をキーにして作っていきたいと思いました。
藤原:確かに横文字の“コンテンポラリーダンス”って言うよりも、“盆踊り”って言われた方がすごく親しみを感じますよね。
大谷:そうですね。
藤原:そうした活動の中で、「盆踊りをしよか」という話になったのですか?
大谷:そうです。ここには四つのアート関係のNPOがあり、それぞれが地域との関わりの事業をやってきましたが、四つのNPOが共同してやろうとなったのは、実は昨年の5月にフェスティバルゲートが閉鎖するかもしれないという話が出た時です。僕たちとしては、10年計画で始まった話なので、「えー、なんでやねん」って思ったんですけれども、まあ、継続して行くためにどうすればいいのか、芸術と地域社会がどういうふうに関わっていったらいいのか、そういう視点を持とうということになりました。今、近代産業が疲弊して行くヨーロッパの都市が同じような問題を抱えていて、大きな工場などが遊休化するという現象が起きています。そのような場所をアーティストに活用してもらうことで都市再生をしていく“創造都市”という活動が盛んです。フェスティバルゲートもご存じのように、今では80%から90%近いテナントが抜けています。そこにアートの団体が入ることで、この場所、この地域が活性化していくんじゃないかということを、シンポジウムを重ねながら考えてきました。話し合いだけではなく、なんか事業をやりましょうと言った時に「あっ、盆踊りがええんちゃうの?」となったという次第です。
藤原:新世界のどこで、いつ開催されるのですか?
大谷:8月5日(土)の午後5時からです。フェスティバルゲートの2階のイベント広場でやります。
藤原:新世界だけでやるのですか?
大谷:盆踊りの櫓を組むのはフェスティバルゲートの中ですが、関連企画として、日本橋の商店街の空き店舗でカフェをやったり、新世界の町を練り歩いたり、いろんな周辺企画も考えています。
藤原:「何かしなくっちゃ駄目だ!」と思った時に、盆踊りになったっていうのが面白いですが、普通の盆踊りですか?
大谷:いわゆる『炭坑節』とか『河内音頭』とかもやりますが、せっかくやるので、新世界の独自の盆踊りはないかと地域のおばあちゃんたちに聞いたんですね。どうも「“南陽新地(なんようしんち)おどり”みたいなのがあったよ」という話が出てきたのですが、そのおばあさんも、歌詞も踊りも覚えてないんです。結局いろんなところに手を尽くして探したところ、なんと地域のジャズバーのマスターがSPレコードを持っていました。『通天閣音頭』と『新世界新地小唄』という2曲が出てきて、その1曲がおばあちゃんが言っていたものと近いものでした。これから本番に向けて、それをおばあちゃんに聴いてもらって、踊りを思い出されるかどうかが、勝負になってきます。もう一つは新しい盆踊りを作れないか。地域の小学校でワークショップをし、子どもたちからたくさんの言葉をもらい、それを詩人の上田假奈代(うえだ かなよ)さんが編集をし、すでに2曲完成しています。便利なことに、四つのNPOの一つは現代音楽のNPOなので、作曲家がいますから、そこで作曲をしていただいています。我々『ダンスボックス』には振付家がいますので、言葉を作る人、音を作る人、踊りを作る人がみな、四つのNPOの中に入っています。今、実際に小学校に行って、踊りのワークショップをやっているところです。
|