●インタビュー前半
藤原:杉浦さんが定義されている紙芝居とは、どういうものですか?
杉浦さん(以下、杉浦・敬称略):基本的には、印刷されたものではなく手描きのものを指します。それから人間が見るものだということ。幼い子に限らず、ご年輩のかたも対象です。
藤原:では、ストーリーも既存のものではなく、自作ですか?
杉浦:そうです。2、3歳の子どもが対象の場合は、あまり難しいものは無理ですが、5、6歳以上ぐらいだと大人と同じ内容でも理解できます。その時、その時代にうけるテーマで創作します。教科書などでは取り上げられていないけれど、今、子どもたちや大人に訴えたいことをできるだけテーマに取り上げるようにしています。そういう発想が絶えず、新しい作品を作るときの原動力になっています。
藤原:新作を作るとき、どんなところを工夫されるのですか?
杉浦:いかに見る人を喜ばすか、遊ばすかというところです。そのために、漫画、クイズ、なぞなぞなどの当てものを要所に入れます。今テレビではクイズ番組が花盛りですが、あれはもともと紙芝居が源流になっています。紙芝居では昭和13〜14年ぐらいからクイズを行っています。今もそういうもので、遊びながら紙芝居の最後を締めくくって子どもを喜ばせてストレスをとってやっています。また昔は、子どもたちに勇気を持たせるために、冒険・探偵ものをテーマにした作品が非常に人気がありました。それをテーマにすると子どもたちが喜ぶ。ところが、今は冒険・探偵ものばかりではうけません。時代に応じた新しい認識を持った、何かワサビのようなものをこっちが提供しないとだめ、というわけでオリジナルの作品を作るようになりました。
●スタジオ
藤原:目の前で紙芝居をしていただいたのですが、お話の世界にまたたく間に引き込まれてしまいました。
松本:紙芝居もそうですが、インタビューに受け答えされている杉浦さんの声、しゃべり方にも味がありますね。
藤原:取材に伺う前は、実はこれほど紙芝居に引き込まれるとは想像していませんでした。でも、絵のタッチにとても深みがあって、例えば海の中で荒波にのまれている絵ですと、荒波にのまれている絵が3カットぐらいありました。真上から見ている様子、海中から見てるいる絵とかがめくるたびに現れ、テレビカメラで撮っているような感じでした。色にも深みがあり、すごく難しい技術を駆使して描かれているように思われました。杉浦さんは絵描きさんとの出会いも大切にされていて、「僕のその思いが通じる人、通じる絵を描いてほしい」という強い思いがあるそうです。「花咲か爺さん」だとか「赤ずきんちゃん」だとかみんなが知っている物語だけではなく、杉浦さん自身が好きな、妖怪やミイラ、ドラキュラなどの物語を自作されたり、野球の村田兆治さんや坂田三吉さんなど実在の人物のお話もあります。中でも「絶対に見て」とおっしゃって、見せていただいたのが、日本のヘレン・ケラーと呼ばれ、生きる尊さを訴え続けた中村久子さんの生涯を綴った物語。完成まで8年を費やし、全6巻60枚、制作費なんと200万円も注ぎ込まれたという超大作です。内容がすばらしく、心にジーンとくる。こういうものを見て、子どもたちがいかに感銘を受け、何を考え、先に進んで行くのか、そのあたりに杉浦さんの思いがたっぷりと含まれています。
●インタビュー後半
藤原:現在、どのような活動をされているのですか?
杉浦:まずNPO法人を作ったきっかけでもあるのですが、個人の趣味で紙芝居をやるのではなく、生活をかけて真剣にやってほしいという思いが出てきて、だったら私の後継者としてプロの養成をしようと考えたわけです。もっと社会意識を持ってやるとなると、たくさんの人の応援も必要になります。また、プロを養成するためには、絵がまだまだ足りません。だからまず日本に埋もれている絵の収集、活用、保存をするということが、まず第一のテーマになりました。ところが、それには莫大な資金が必要です。私個人でこれだけの絵を集めるのに家1件建てられるぐらいのお金をつぎこんでいます。個人で苦労して集めるよりも、たくさんの賛同者がいれば、収集・活用もうまくいきます。それがうまくいけば、今度は新しい紙芝居師の人数も増やすことができます。
藤原:ホームページにも、名刺にも、「走れ大阪」って書いてありますが。
杉浦:昔はね、北区なら北区だけでやっていました。ところが、東京の紙芝居がすたれていき、紙芝居は大阪が中心になりました。だから大阪府下全域を駆け回ってやろうという意識でやってきました。
藤原:紙芝居を通じて感じる大阪の良さをお教えください。
杉浦:大阪の良さは、ざっくばらんで言いたいことをはっきり言えるところ。ずけっとアホ、アホ言うて、ごまかす。
藤原:関西の人はアホって言われてもうれしいんですよね。だから、怒らない。
杉浦:そうそう、大阪のそういう点がええとこやね。
●スタジオ
松本:“杉浦節”がおもしろかったです。
藤原:杉浦節は直球ですが、温かさがあります。これは、実際にあったことだそうですが、公園で紙芝居をしていると、子どもたちが食べ物などいろんなゴミを捨てる。でもそれを必死で拾っている子どもがいたそうです。それを見て杉浦さんが、「エライ、君おいで、アメちゃんあげよう!」ってあげたところ、他の子どもたちがゴミを拾ったらもらえると思って、みんな必死でゴミを集めはじめたんだとか。おもしろいのは、ゴミ箱から捨ててあるゴミを拾って持ってくる子どもがいたので、「それはあかんよー」とか言いながらも、ゴミ拾いの輪が広がったところです。紙芝居から子どものしつけさえ生まれるところに、杉浦さんの温かさが見え隠れしているように思いました。
松本:さかんにプロ、プロとおっしゃっていましたけれども、プロとしてじゃんじゃんお金を稼げとか、そういう意味ではないんですよね。
藤原:そうです。『紙芝居文化協会』のホームページでプロの紙芝居師になる人を募集されていますが、その条件のひとつに、“年金生活者で社会に貢献したいと考えている人”とあります。ですから、紙芝居で稼ぐということではなく、大阪を愛し、地域の子どもたちを愛し、紙芝居を通じて交流を深め、子どもの成長を見守ることをめざされているのだと思います。
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理事長 杉浦 貞さん |
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オリジナルの作品を見せてくださいました
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杉浦さんのご自宅には、たくさんの紙芝居が
大切に保管してあります
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時代を経て紙芝居は、
重みのある質感が出てきます
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大人には大人向けの「紙芝居」を行います
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「中村久子の生涯」は杉浦さんの十八番です
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公園では子どもたちが、ワクワクしながら
紙芝居を見るために待っています
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子どもたちは、どんなお話が聞けるのか、
期待いっぱいです |
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杉浦さんのお話の世界に
いつの間にか引き込まれていきます |
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