大川を桜クルーズする「かもめ」
写真提供:御舟かもめ

 御舟かもめ」船長・中野弘巳さんの前職は、、テレビ制作ディレクター。リーマンショックが渦巻く2008年末、あえて安定した職場であるNHKを退職して御舟かもめの営業を始めました。理由は、水都・大阪のまちづくりに欠かせない小型船による観光の灯を絶やさないため。川が好きで水辺のマンションに住んでいた中野さんは、NPO法人水辺のまち再生プロジェクトの中野(吉崎)かおりさん(2005年5月14日の放送で紹介)と知り合い、かおりさんが再生プロジェクトの一環として運航していた水上タクシーに乗って初めて大阪の川をクルーズ。自分が住んでいる町がこんなふうに見えるのかとショックを受け、あまりの興奮に缶ビールを飲み過ぎてしまったそうです。以来、大阪の川の魅力の虜に。
  2人は2007年に結婚しましたが、おめでたのため、かおりさんが水上タクシーを止めざるをえなくなったため、一大決心して2008年秋に船舶免許を取得し、2009年夏に出産後のかおりさんと2人で御舟かもめを始めました。

ウッドデッキ(甲板)
快適なクッションに座りながら

 開業前に運河の利用が盛んなオランダとイギリスへ視察に行った中野さんは、住民がカヌーや船など、様々なスタイルで気軽に川に出ている姿を目の当たりに。大学で都市計画を専攻した関係もあり、川がたくさんある大阪では、大きな船も小さな船もいろいろあって多様なクルーズが楽しめるべきだと考えています。特に小型船は乗った時に水面が近くにあり、空も広く見えるので楽しめるとのこと。しかし採算面で必ずしも有利ではなく、現在、大阪で小型船を運航している業者も他のサイズの船を運航するなどして事業を成り立たせています。中野さんは小型船1隻のみで営業。水都・大阪のまちづくりへの熱意がそれだけでも伝わってきます。
 かもめは、天草の海(熊本県)で真珠養殖の作業に使われていた和船。住宅のリノベーションを手がけている人たちに頼み、「川の上に浮かぶ小さな家」をコンセプトに、 木でデッキと船室を設置。塗装は中野さん自らが行いました。10人乗り(船長含めて11人)で、気持ちのいいデッキには、冬場、こたつを入れることもあるそうです。

野点(のだて)ならぬ“舟点”?
写真提供:御舟かもめ

 

 現在、用意しているクルーズは次の五つ。この他に、貸し切りでオリジナルクルーズを楽しむこともできます。
1.朝ご飯クルーズ
天然酵母パン、サラダ、ドリンク
2.ドボククルーズ
高速道路や水門、橋など土木建造物の解説付き
3.うたたねクルーズ
大川〜淀川・菅原城北大橋付近(往復)
、毛馬の閘門を通過する貴重な体験ができる
4.かもめクルーズ(2コースから選択)
大阪城や中央公会堂などを巡るキタと、道頓堀などを巡るミナミ
5.バークルーズ

幻想的な夜の街並みを楽しみながら一杯
 なお、どのコースにもドリンクが付いていますが、飲食物の持ち込みも自由です。

 
船長イチオシ 港大橋に沈む秋の夕陽
写真提供:御舟かもめ

 これまでのお客さんのなかで印象に残っているのは、貸し切りで還暦パーティをしてくれたグループ。市内のあちこちの船着場に寄ると、次々と親戚が乗り込んできてお祝い。事前に徐行を指示されていた場所まで行くと、そこには川沿いの自宅マンションの窓に大きなハートマークが取り付けてあり、本人へのサプライズメッセージが用意されていました。中野さんは、このようなおもしろい使い方をどんどんして欲しいと言っています。

 今回の取材では、お話を伺った後、係留場所である港区の天保山運河からミニクルーズを楽しませてもらいました。船が進むスピードは自転車程度、川沿いをジョギングする人に追い抜かれることもあるというゆっくりしたクルーズは、風も空もさわやかで快適そのもの。尻無川の河口まで出て、海抜60メートルもの高さがある橋や、トラス橋として柱の間隔が世界3位の510メートルある港大橋などを堪能しました。