飛鳥川(大阪府羽曳野市)

歴史ロマンを描きつつ
大阪を流れる飛鳥川
〜飛鳥川散策シリーズpartI〜
2009年3月14日放送

3月も半ば。大和川にどんどん出掛けたくなる季節となりました。そこで今回と次回、2本の飛鳥川を散策することにしました。飛鳥川は大阪と奈良にそれぞれあり、その2本は直接つながっていない別の川です。今回は羽曳野市を流れる大阪の飛鳥川に来ていて、いま立っている辺りは水が底まで見えるほど澄んでいます。この川を、羽曳野市教育委員会社会教育課の高野学さんにお話を伺いながら散策します。

飛鳥川に残る歌の謎


月読橋

 飛鳥川に架かる美しい月読橋。そこに立ち、まずは大阪の飛鳥川について伺いました。
高野 飛鳥川は東に見える美しい二上山のふもと、ここから5〜6kmほど行った竹内峠辺りを源流に、羽曳野市の東部を西へ流れ、ここから1kmほど下った所で石川に合流します。この辺りで幅20mほどの小さな、そして、短い川です。飛鳥と聞くと奈良を思い浮かべる方も多いのですが、実は全国に20カ所近くあるようです。羽曳野市にもあって、日本書紀や古事記などに出てくる「遠(とお)つ飛鳥」「近(ちか)つ飛鳥」という言葉は、難波(大阪)から見て遠い奈良を遠つ飛鳥、近いこの地を近つ飛鳥と呼んでいるものと、一般的には考えられています。

 月読橋から20〜30mほど。立派な歌碑があります。
高野 高さが2mほどある立派なこの石碑は、文化2(1805)年に建てられた非常に古いものです。
 
あすか河 もみち葉なかる 葛城の
  山のあき風 吹きそしぬらし   人麿

刻まれているこの歌は、飛鳥川にモミジが流れている、ここから見える葛城山に秋風が吹いているんだ、という意味に取れます。直接的で分かりやすい。

 この場所で詠んだ歌として、しっくりきます。
高野 ところが、これには元歌があり、人麿はそれをアレンジして作ったんです。それを「本歌取り」と言いますが、元はこんな歌です。
 
明日香川 もみち葉流る 葛城の
  山の木の葉は 今し散るらし


人麿の歌を刻んだ歌碑

こちらは「山の木の葉は今しちるらし」とし、「葛城の山の木の葉が、今、散ってるんだろうな」という意味になり、微妙な違いが出てきます。遠くの葛城山を思い浮かべて詠んだ歌とも取れるわけです。万葉集には、奈良の飛鳥川を詠んだ歌はたくさんありますが、河内の飛鳥川の歌はこれ以外にありません。そのことからも、河内の飛鳥川の歌だという解釈に異論を唱える人がいて、二つの考え方が存在するのです。

神社に残る石の謎


杜本神社

 月読橋から徒歩5分ほど、杜本(もりもと)神社にやってきました。川沿いではありませんが、竹林が風にそよぎ、ウグイスが鳴く雰囲気満点の神社です。
高野 今から200年ほど前の僧侶・覚峰(かくほう)がここ駒ケ谷にやってきて、かなり荒れていた金剛輪寺に入り、立派に建て直しをしました。彼は、国史や和歌、また、オランダの測量法などの西洋学問を勉強し、一度すたれた1弦の琴を復活させるなど、多芸多才の僧侶で、先程の歌碑や神社入り口の石灯ろうの文字も、彼の筆によるものです。

 拝殿の裏手にも、覚峰ゆかりの石があります。高さは1mぐらいでしょうか
高野 左右で1対になっているこの「隼人(はやと)石」には、 頭がネズミで体が人間という、不思議な絵が描かれています。実はこれによく似た石が、奈良市の「聖武天皇皇太子那富山(なほやま)墓」にもあり、この隼人石も古代に造られたものと考える説がありました。 奈良の石は御陵を囲むように立ち、全部は残っていませんが、十二支が刻まれていたらしい。それぞれの方角の神様により、御陵を守る意味があったようなのです。

 ところが、この隼人石は古代に造られたものではないとのこと。
高野 江戸時代に覚峰が奈良の石を真似て造ったのだろうと、今は考えられています。その奈良の像とこの像かぴったり重なるため、おそらく、拓本でも手に入れ、それを元に造ったのではないと思われます。


丘の上からの眺め

 最後に、河内飛鳥を見渡せる丘に上がりました。飛鳥川の源流や竹内峠、葛城山も見渡せます。
高野 ここからは丘に囲まれた飛鳥川流域が見渡せ、それが周囲から切り離された別世界みたいに見えないでしょうか。所々に、家並みや池、学校があり、田畑が広がっている。箱庭を見えます。また、あそこの森は聖徳太子の墓、さらに向こうの森は推古天皇の御陵というように、歴史を語るものがこの飛鳥川周辺にはたくさん残っています。

 

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高野さん

羽曳野市を流れる飛鳥川を訪ね、歴史散歩を楽しみました。歴史にあまり詳しくない私も、お話を聞きながら歩いているうち、段々と興味がわいてきました。これから暖かくなり、ますます見どころも増えていきます。皆さんも、ぜひ一度お出かけください。次回訪ねる、もう一つの飛鳥川も楽しみです。