「綱かけさん」の様子

地域の人に愛され
守りつづけられる針道川
〜伝統行事「綱かけさん」を取材〜
2009年1月17日放送

山に囲まれた奈良県桜井市針道地区。雪が少し残り、幅2mほどの針道川には底が透き通って見えるほど澄んだ水が流れています。この水は、寺川を経由して大和川へと流れ込んでいます。今日は、ここで年に1度の「綱かけさん」が行われ、巨大なしめ縄のようなものが針道川に架けられます。一体、どんな綱なのでしょう。まずは、ここから1kmほど上流にある公民館に行き、綱作りを見ることにします。

欠かさず行われてきた伝統行事

 針道公民館には二本のはしごが掛けられ、その中段に1人が立ち、下で編む2人とわらを渡す1人の計4人が、2組で綱を作っています。針道地区の区長、東谷育宏さんにお話を伺いました。
東谷 綱は「姉」と「妹」に分けて作ります。姉の方が1mぐらい長く、福わらは姉に二つ、妹に一つ付けます。現地でドッキングし、長さは35mほどになります。下流に向いて左側が姉、右側が妹の綱です。

 公民館の中では長老2人がシキビ(仏前草)を用意していて、色々な作業が同時に行われています。
東谷 綱をなうのに1時間半ほどかかり、シキビは現場で取り付けます。毎年、(村を出ている人にも)帰ってきてもらい、総出の11〜12人でします。半分は若い人です。戦時中も残った人で行い、戦後には大雪で1ヵ月延期してでも架けたことがあると聞いています。私らの代になり、村の人に不幸があって時期を変えた時もありましたが、欠かさずやってきました。昔は1月12日に、今は都合がつきやすい第2日曜にしています。

 綱かけには、どういう意味があるのでしょう。
東谷 針道地区の入り口のところに架けますが、村に病気が入らないように、そして、福わらを付け、福が来ますようにという意味で架けています。

 世話役は針道区長が務めるのでしょうか。
東谷 「宿(やど)」になった方にやっていただいています。宿は順番に回ってきて、去年までは、わらやしきび、ご馳走などすべてを用意し、綱作りも宿の家でしました。しかし、今年は村でしようということになり、場所も公民館に移しました。それでも宿の方がしなければいけないことはありますけどね。わらは150束ほど必要で、農家の方にお願いしています。


この清流を下流にも

 針道地区の入り口に戻りました。運ばれた2本の綱は、針道川と横の細い道をまたいで架けられます。下流に向いて左側のケヤキと右側のカシノキに付けられますが、最初に2本の綱をつないだ後、川を渡って姉を、山を少し登って妹をくくり付けます。架けた後には、カシノキの前で、巻物を広げ、般若心経を読んでお祈りの行事をします。
東谷 村人の安全、家内安全をお願いしています。今年1年、健康でいけますようにと。

 

 木に古い綱の一部が残っています。年の途中で朽ちて落ちてしまうようです。
東谷 何年も前の綱がつながっています。取り外さず、思い出を残しておるわけですわ。道に落ちたのは、通行の妨げにならないよう、横に避けておきますけど。

 新たに架かった綱を見て、どう感じるのでしょう。
東谷 退職してからは毎日通らなくなりましたが、たまに通ると気分が新たになり、運転なども慎重になりますね。帰り道だと、村に帰ったなあという気になります。ここは過疎地帯ですが、いいところもあります。新しい道も出来ましたし、ぜひ来てもらいたい。

 綱かけを一生懸命守りつづけ、針道川をとても大切にしている皆さんのお陰で、水もすごく奇麗です。
東谷 私はここに来て40年ばかりですが、先輩の新谷さんらは、この川で泳がれたことがあります。今もサワガニやイモリがいて、夏には蛍も飛んで、大変奇麗な水やと思います。上流としては、やっぱり水を奇麗にして流したいと思います。

 針道生まれの新谷善範さんにも伺いました。
新谷 昔はもっと水の量が多く、ここらは深くて、小学校の時はみんな泳いでましたんや。昔は山の木に雑木が多かったので、保水力で雨水が山にたまっていましたが、今は杉やヒノキに変わって雨が降ってもいっぺんに流れ、2〜3日したら減ってしまいます。

 この水が流れる大和川の下流でも、多くの方が奇麗にしようと色々な活動をされています。
新谷 この辺は奇麗やけど、最近はごみを捨てたりする人が多いので、ああいうのは少のうせなあかん。新しい道が出来たら、ごみをぱくぱくとほかしたりしますやんか、車から。あかんと思います。

 

 

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東谷さん

新谷さん

1月11日行われた桜井市針道地区の「綱かけさん」を取材しました。奈良県では、このような「勧請(かんじょう)綱かけ」行事がまだ残ってはいるものの、やはり段々と減っています。そんな中、皆さんが仲良く団結して作業している様子を見て、こうした行事の大切さを感じます。また、少しうらやましくも思いました。