曽我川浄化施設棟(右奥の建物)と
浄化された水の排出口

微生物や植物の力を借り
大和川の水を浄化
〜「曽我川浄化施設」を取材〜
2008年12月13日放送

奈良県川西町を流れる曽我川。数百m北で大和川に合流するという辺りに、「曽我川浄化施設」があります。大和川、曽我川、施設の東側に流れる飛鳥川に囲まれ、周囲に広がる収穫後の水田ともマッチするその建物は、お寺のような雰囲気すら醸し出す和風の建造物で、予想していた工場のようなイメージは全くありません。また、浄化設備らしきものが見当たらず、どうやって曽我川の水を奇麗にしているのかも不思議です。

全国最大級の浄化施設

 機械の音がする施設に入り、国土交通省大和川河川事務所河川環境課の松田幸喜さんにお話を伺いました。随分、広い施設のようです。
松田 平成11年度に完成した全国最大級の施設ですが、浄化槽は地下に埋まっていて地上からは見えません。1日最大26万tの水を浄化し、BOD(生物化学的酸素要求量)の70%を取り除いています。浄化方法は、微生物のすむ接触材に水を接触させて微生物に汚れを分解させるというもので、一般的な礫(れき)と呼ばれる小石ではなく、ユニークな形をしたプラスチック製の接触材を用いています。表面積が礫の約20倍で、微生物が多く付き、水の接触面も広くなります。


左から第1槽、第2槽、第3槽

 接触材は、板を組み合わせて作った丸い形のものが2種類、綿のようなひも状のものが1種類あります
松田 曽我川からくみ取った水は、 最初と2番目に丸い形、3番目にはひも状の接触材の入った三つの浄化槽に通します。水は下から上へ流して重い物質を沈殿させ、接触材に汚れの物質が詰まらないようにしています。なお、ある程度時間がたつと接触材の微生物が死ぬため、空気を送ってそれをはがします。そうすると、また新しい微生物が生まれてきます。

 下に沈殿した物質は、どう処理するのでしょう。
松田 吸引ポンプで抜き取り、天日乾燥室で脱水させて、土砂として利用します。1年間で約500立方メートル、ダンプ125台分の汚泥が出ます。

 曽我川からの取水は、どうしているのでしょう。
松田 ゴム堰(ぜき)と呼ばれる堰によって取水しています。 通常は風船のようにふくらんでいますが、増水するとゴムから空気を抜き、水の流れに支障がないように堰を倒します。

 この施設は見学ができるようです。
松田 事前に申し込んでいただければ、誰でも見学できます。薬を使わず、川の自浄作用で水を奇麗にする仕組みを、ぜひご覧ください。見学者には川を奇麗にと呼びかける啓発も行っています。

最新施設は植物による浄化

 大和川水系には、他にも浄化施設があります。
松田 ここを含めて19施設が完成しており、浄化方法も全部で7種類あります。例えば、昨年、河合町に出来た「不毛田(ふけた)浄化施設」は、水を植物のヨシ帯に流すことで浄化しています。汚れ物質がヨシ帯の中で沈殿し、土壌や植物にも吸着されます。沈殿した物質は、微生物や底生生物が捕食や分解をし、ヨシが窒素とリンを吸収します。ヨシは、地元自治会のご協力により手作業で植えましたが、河川清掃や水生生物調査も手伝っていただきました。こうしたヨシ帯は、浄化作用のほか、魚の休息や産卵の場所となる自然環境面での利用も考えられます。

 他には、どんな方法があるのでしょうか。
松田 川が本来持つ自浄作用を促して水を奇麗にする「瀬と淵浄化施設」があります。川は、水深が深くてゆっくり流れる「淵」では汚れ物質が底に沈んで微生物が分解し、水深が浅くて流れの早い「瀬」では水が泡立ち、微生物が汚れを分解するために必要な酸素を水に多く取り込みます。 これを再現している施設です。メンテナンスが不要で、景観面でも河川の本来の姿になじみ、流れに変化が出て生物の重要な生息場所にもなる施設です。

 残りの四つの方法についても伺いました。
松田 川床に礫の接触材を敷き並べ、水を広く薄く流して接触材に多く触れるようにする「薄層流浄化方式」。浄化槽の接触材に礫を使う「礫間接触酸化方式」。中に接触材をつり下げた鋼製かごを河床に敷き並べ、直接、河川の水を流す「直接接触酸化浄化施設」。そして、石を入れたかごを川に設置して流れを二つに分け、一方は砂に流して水をろ過し、もう一方は木の杭を何本も打った所に通して流れをゆっくりにすることで汚れを沈殿させる「流離砂州浄化法」です。ただ、こうした浄化施設で水を奇麗にするだけではだめで、「川を汚さない、奇麗にしよう」という皆さんの心がけが何より大切です。

 

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松田さんと
手にしているのは接触材

松田さんのお話のように、 川を奇麗にするには施設も必要ですが、日ごろからの心掛けが何より大切。水質改善強化月間の2月には、1週間にわたって大和川や支流に家庭排水を流さないようにする取り組み「大和川流域生活排水対策社会実験」が行われます。皆さんも、「残さない」「ふき取る」「流さない」の三つを心掛けてください。