「大和川筋図巻」の一部
堺市博物館蔵

大絵巻でよみがえる
江戸期の大和川の姿
〜堺市博物館のスポット展示「新大和川」 〜
2007年12月1日放送

「関西文化の日」にちなんだミュージアム巡りの最終回として、堺市博物館を訪れています。ここでは、堺市の歴史や美術、考古学上の資料などが、保存・展示されていて、大和川に関するものもたくさんあり、常設展示されています。また、12月4日からはスポット展示「新大和川」が始まり、普段は見ることができない貴重な資料が公開されます。今回は、その内容を一足お先にご紹介します。

7mもの大和川絵巻が圧巻

 まず、スポット展示の内容について、堺市博物館の学芸員、矢内一磨さんに伺いました。
矢内 常設展示されている「大和川筋図巻」を広げ、初めから終わりまで全部公開します。これは大和川の川筋を、今の奈良県三郷町辺りから堺市の河口まで詳細に描いた絵巻で、江戸時代に作られました。7m余りの長さで、常設展示では他の作品もあるため全部を広げるのは大変です。

 文字がとても奇麗で、色も使われています。
矢内 まず目に入ってくる水色が、川です。堤防は、黒色が幕府の造ったもの、緑色は周りの村が中心となって造ったものを表します。浅香山もしっかり描かれ、川の曲がり方もかなり忠実です。また、657カ所の書き込みが入っています。

 船着場と書かれている所があります。
矢内 この大和川には色々な船が運航し、物や人を運びましたが、この絵図にはその点も描かれています。

 誰が、何のため、いつごろ作った絵図なのでしょう。
矢内 由緒書などはありませんが、おそらく、大坂代官が兼務する堤防を管理していた堤奉行か、堺奉行配下で川の中を管理していた川方役所のいずれかが、管理のために作ったものと考えられます。堤防は決壊しやすく、川の中もすぐに中州が出来て流れを変えるなどしますから、しっかり管理していく必要があったわけです。なお、この中に書いてある年号などを見比べてみますと、おおよそ江戸時代中ごろの景観を描いているものと考えられます。

 他には、どんなものが見られるのでしょうか。
矢内 大和川の堤防模型を展示します。平成に入って作られたもので、藤井寺市辺りでの発掘成果に基づき、江戸時代の堤防と現在の堤防との大きさ比較や、人間との大きさ比較などができる模型です。また、紀州藩の行列が、参勤交代で当時の大和橋を渡って、和歌山の方へ戻っている様子を描いている、「紀州藩参勤交代行列図」を展示します

小学生の勉強にも役立つ

 スポット展示「新大和川」は、大和川付け替え300周年を迎えた2004年に行った企画展が好評だったため、翌年から年1回ずつシリーズで続いているとのこと。小学生の勉強にも役立っているようです。堺市博物館の川口祐司さんに伺いました。
川口 堺では、4年生の社会科の地域学習で大和川付け替えを勉強する小学校がたくさんあり、当博物館でこうした史料を間近に見ることにより、興味・関心や意欲が高まっていくものと考えています。教科書や副読本に載っているものと本物を比べて見た時、その驚きにはすごいものがあり、色の奇麗さや大きさ、細かな細工ぶりなど、実物を見ることで子供たちの新たな感動が生まれてくる。それが学習効果につながっているんだろうと考えています。子供たちが「すごいな」と思うことがあれば、継続して学習してくれる意欲を持ってくれるのではと思っています。

 子供たちの反応は、どうなのでしょう。
矢内 随分と興味を持って見てくれます。とくに、この絵巻物は、江戸時代に書かれたものに、こんなにも色が奇麗に残っているものなのかと、すごく驚いて見てくれます。学校現場の先生方も大和川の学習に熱心で、私たちも刺激を受けています。堺と大阪を行き来する際には必ず大和川を見ますが、そのたびに、人間が約300年前に付け替えた川だということを思い出してもらえたらと思います。

 付け替え後の「新大和川」は、土砂を運んで港を埋め、町を衰えさせたという意見があります。
矢内 既に元禄時代、井原西鶴は、堺の町を大人びた町だ
と、経済的に成熟した都市ぶりを表現しています。付け替えにより活気をなくしていった傾向はありますが、それ以前からそうした流れがあったものと思います。逆に、大和川が運んできた土砂で海岸が埋めていかれて、新田が開かれ、港に新地が造られた面もあります。堺の人たちは、こうした土砂とうまく付き合いながら町を造っていったのではないでしょうか。

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矢内さん(中央)と
川口さん(右)

堺市博物館がある大仙公園を歩きました。緑に囲まれた広い敷地には、自転車博物館や中央図書館、日本庭園など、多くの施設があります。この公園から北へ行くと大和川が流れていますが、現在の大和川がいつか歴史の一部になることを考えると、大切にしなければいけないという思いが強くなります。