箱本館「紺屋」と紺屋川

紺屋川になびいた
天然の藍の色
〜紺屋町、紺屋川と染め物屋の歴史〜
2007年1月13日放送

奈良県大和郡山市の紺屋町に来ています。大和郡山市と言えば金魚の産地として有名ですが、今は真冬なのでさすがに町の川に金魚の姿は見えないですね。細長い水路のような紺屋川の水は、下流で蟹川に流れ込み佐保川へと注ぐので、大和川の水源の一つになっています。「紺屋」とは元々藍染め屋さんのこと。紺屋川が流れる紺屋町の歴史について、箱本館(はこもとかん)「紺屋」の田村佳代さんにお話を伺います。

自然のもので仕込んだ藍
工房には独特の香り

 箱本館「紺屋」というミュージアムに来ています。古い家の町並みが美しい紺屋町の中でも、ひときわ趣のある建物。ここは元々は何だったんですか?
田村 江戸時代中期頃から代々藍染めをしていた町家です。今は、大和郡山市が所有しています。中には、藍染めの体験工房があり、藍染めの道具の展示、金魚をテーマにした美術工芸品の展示などもしています。

 体験工房の中は、独特の香りが充満していますね。
田村 藍染めの液が醗酵しているにおいです。藍の原料はタデアイの葉を醗酵させた「すくも」で、その中に藍染めの青色の成分が含まれています。木の灰の上澄み液を取ったアクを水分とし、他にも栄養素になる、例えば日本酒、小麦の皮であるフスマなどを混ぜ合わせて仕込み、醗酵させます。

 全部自然のものなんですね。本当に鮮やかな紺色です。この液に染める物を入れるんですか?
田村 はい。「つけて洗う」というのを繰り返せば繰り返すほど、どんどん濃い色になります。こちらでは、フィルムケースや洗濯ばさみ、輪ゴムなど、身近な物を使って、ハンカチなどに模様を付けて頂いています。

  前を流れている紺屋川は、何か関わりが?
田村 作業場で藍染めをした布などを紺屋川で洗ったりしていたようです。昔の文献などを見ても、大体今と同じ、1mあるかないかという川幅です。
  その川幅がこの町の情緒を引き出してますよね。

紺屋町、豆腐町…職業の名が
そのまま町名になった城下町

 紺屋町も紺屋川も、両方「紺屋」が付きますね
田村 豊臣秀吉の弟、秀長が郡山城主になった時に、城下町の繁栄と保護のために同業者を同じエリアに集めました。産業奨励の意味があり、効率がすごく良かったと。13の町があり、ここ紺屋町の他にも豆腐町、茶町、綿町など、そのまま職業につながっている町の名前があって、今も残っています。

  「箱本」とはどういう意味なんですか?
田村 同業者を集めた13の町による自治制度のことです。「御朱印箱(ごしゅいんばこ)」というつづらのような箱の中に、もう一回り小さな箱を入れて、その中に関係書類を入れ、ひと月ごとに一つの町が当番になって、箱を預かって自治を行っていました。箱には、御触書みたいなものや、自治をするにあたって与えられた特権などを書いた文書が収められていました。

 


 当番になった町で、その箱を管理するのはどなた?
田村 今で言う自治会長さんのような世話役が箱を管理し、当番だと分かるように「箱本」と書かれたのぼりを立てます。その代表の方は、13の町すべてにわたる治安維持をします。例えば火事が起きた時の消火活動や、情報伝達の取り仕切りなど。また、問題が起きた時には、前月と翌月の当番の方と3人で相談していたようです。全国的にも珍しい制度だと思います。

 自治組織の先進ですよね。ところで、ここは紺屋が集められる前、どんな町だったのでしょう?
田村 以前からも、この場所で藍染めをされてるお家はあったようですし、箱本制度ができたことで、藍染めを新たに職業にされた方もいらっしゃったようです。また、染色が専門の方の他、型染めの型紙を彫る方、糊置きをする方というように、藍染めに関わるすべての職業の方が、それぞれいらっしゃいました。

 紺屋町で、すべての工程が仕上がっていたんですね。
田村 一番盛んだった江戸中期頃は、紺屋町に150軒くらいある家のうち20軒弱が藍染めをされてるお家だったと。明治以降は、化学染料が出てきたので、染め物をするお家はどんどん減り、今は残念ながら紺屋町にはいらっしゃいません。藍染めを仕込むのは、とても時間がかかり、大変な作業が強いられますので。

 でも、だからこそすごく深みのある奇麗な色が出るんですよね。藍染め体験をした方からは、どんな感想が?
田村 やり出すうちにすごくはまる方が多く、遠方からも「また来たよ」と何度もお越し頂いています。


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田村佳代さんと
藍染め体験は500円〜
箱本館の前を流れる紺屋川でさらされた藍染めによって、この町が成り立っていたという歴史をぜひ知って、藍染めを体験して頂きたいですね。また、箱本館の中には、金魚がたくさん泳いでいる水槽があります。面白い顔の金魚もいるんですよ。いろいろ楽しめる所ですので、ぜひお出掛け下さい。