竜田川に架けられた雄綱

水を司る龍神様の
しめ縄を川にかける
〜竜田川の勧請綱かけ行事〜
2007年1月6日放送

今年1回目のテーマは、しめ縄です。不浄なものが入って来ないよう、お正月には神棚や玄関に飾りますが、今日訪れている竜田川にも、毎年大きなしめ縄がかけられるそうです。竜田川は、奈良県生駒市や平群(へぐり)町を流れ、斑鳩(いかるが)町で大和川に注ぎます。平群町北部の椣原(しではら)にある金勝寺(きんしょうじ)の佐伯良勝住職にお話を伺い、新しいしめ縄がかけられる行事の模様をお伝えします。

雄綱は川を渡り
雌綱は柱の下を守る

 こちら金勝寺は、どのように創建されたんですか。
佐伯 行基菩薩開基のお寺ということで、それには一つの伝説がございます。行基菩薩が春日神社におこもりになっていた一夜に、白髪の老人が夢枕に現れて、「未申の方角にお寺を建てなさい」とお告げをされた
。そして、行基菩薩がここへ来られると、その老人がまた夢枕に現れて、「我は、この土地に住む青体龍王。ここで修行を再度するならば、我、末代まで守護する」と言われた。それ以後、時の聖武天皇にご請願なされて、この寺ができたということです。

  夢枕に立った白髪の老人が、実は龍神様だったと?
佐伯 そうです。龍神様は水を司ると同時に、五穀豊穣の神様です。五穀が実るには水と風が必要ですから、大体、川と龍神さんとがひっついてますね。昔は、綱をかける場所に、龍穴があったそうです。

 今、本堂前では、地元の皆さんがワラを束にして、作業されています。このしめ縄は、何というのでしょうか。
佐伯 「勧請(かんじょう)綱」、あるいは「龍神さんの綱」と呼んでいます。綱をかける清浄なる場所を勧請場と言い、昔の村の入り口にあたります。村に悪災が入って来ないように、さらに、天下太平、五穀豊穣、村中安全の意味を含めて、しめ縄を張って結界します。綱は龍神さんの形にして雄・雌を造ります。これは子孫繁栄ということです。そして、雄綱を川にかけます。かけて余った綱は、建ててある柱のほうへ垂れてきますので、そのぐるりを雌綱で巻くんです。柱の下を巻くのには、家庭を守るという意味があります。

  綱の大きさはどれぐらいになるんですか?
佐伯 雄綱は大体長さ27〜30mぐらいです。雌
綱は大体20mそこそこです。綱の直径は25pぐらいありますね。昔は力の強い人が2人、肩に棒を乗せて担いでいきました。目方は100sは超えるでしょうね。

 雌綱は、どんな形なんですか?
佐伯 雄綱がたくましい形になるのに対し、雌綱は優しく、しな良く造ります。

  しめ縄ができ上がった後は、どんな儀式を?
佐伯 人が一人立って、その周りを雄、雌両方の綱でぐるぐる巻き、崩れないように縄かけします。中の人は、後で下から這い出てきます。その龍神さんの綱ができ上がると、残ったワラをたくさん敷いて、昔は、そこへ前年度に養子に来られた男の方を一番に寝かして、龍神さんの綱を上に乗せたわけです。そして、村の人たちが「祝たろ、祝たろ」と言って、何べんもその上を乗ったり下りたりしていました。今は、誰彼なしに放り込まれます。龍の綱を背中に乗せて頂くことで、健康に一年間過ごせるといういわれがあるんです。

 

竜田川の上空、線路の真横で
綱をかける作業を行う

 ついに完成です。朝8時30分から約4時間にわたり、男性20人ぐらいがワラを束ね、太く長い縄を3本造り、それをまた束ねて、ねじって、よりをかけてできた雄綱と雌綱。これから、勧請綱かけの作業に入る前に、この雄綱、雌綱を組み合わせる作業が始まります。立っている男性の両肩に雄綱、雌綱をそれぞれ掛け、からませて、その人を芯にして周りをとぐろを巻くように、頭のてっぺんまで巻き上げるんですね。からまった雄綱と雌綱はいったん、本堂にお供えされます。

 竜田川に下りて来ました。いよいよ勧請綱かけです。近鉄電車の鉄橋の真横で、電車の接近を合図してもらいながらの作業です。川の上空にあるワイヤーに、雄綱を引っ掛けながら向こう岸に渡していきます。真ん中には、男性のシンボルがくくりつけられています。真下には竜田川が流れています。雄綱は波打つように、川の上空を横切るようにしてかけられました。雄綱にくくりつけられた細い縄が、龍の爪に見えています。この男らしい龍が、この村を守っているんですね。最後は、金勝寺のご住職によってお経が唱えられ、その後、今日の行事はお開きとなるようです。



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佐伯良勝住職と
1月3日に行われた、竜田川の「勧請綱かけ」の模様をお送りしました。地域の方々が大切に守ってこられた行事って、やっぱりいいですよね。それにしても、ユニークな伝統行事がいろいろあるものなんですね。川にかけられた雄綱を見た瞬間、「川を奇麗にしていきます!」と誓わずにはいられませんでした。