竜田川と竜田公園

万葉の紅葉、現代の四季
竜田川の風景をたどる
〜竜田川と奈良県立竜田公園〜
2006年11月25日放送

奈良県斑鳩町に来ています。目の前の大和川を上流側へ行くと、竜田川があります。竜田川は源流のある生駒市から平群町を抜け、斑鳩町で大和川に合流します。その合流地点に近い所から上流に向かって、川の両側に竜田公園が1.4q程続きます。ここはとても有名な紅葉の名所で、昔から多くの和歌にも詠まれてきました。「斑鳩の里観光ボランティアの会」吉野俊明さんにガイドをお願いします。

百人一首に出てくる竜田川は
大和川のことだった?

 「竜田川を楽しむなら、まずここ!」とご案内頂き、竜田公園にある小高い山にやって来ました。
吉野 この山は三室山と申します。高さは82m程。頂上からは大和平野が一望できます。今、法隆寺が見えていますが、竜田川の岸には、聖徳太子が亡くなった時に野辺の送りをした「葬送の道」が當麻の方へ続いていました。他にも、平安時代の最高の美男子と言われた在原業平が河内姫という彼女の元に通った「業平道」、それから伊勢参りの道や奈良街道といった、たくさんの古道がこの斑鳩に集中しています。

 竜田川沿いに、歌が記された石のプレートがありました。
「嵐吹く 三室の山のもみぢ葉は
        竜田の川の錦なりけり    〜能因法師」
「千早ふる 神代も聞かず竜田川
         からくれなゐに水くくるとは   〜在原業平」
 この二つの歌は、小倉百人一首に出てきますよね。竜田の紅葉を歌っているようですが、この辺りで詠まれた歌ということになるのでしょうか?
吉野 それについては、異論があります。吉野の桜と竜田のモミジは二大歌枕でした。でも、当時は宮中や貴族のお屋敷で、竜田のモミジや吉野山の桜が描かれた屏風絵を見ながら歌を作るということが普通に行われていたので、ここで詠んだかどうかは確かではないと。それに、今の大和川を竜田川と言ったという説もあります。龍田の本宮、龍田大社が、ここより下の大和川が流れる三郷町立野にあるからです。また、今の竜田川は平群川と呼ばれていたようで、そうなると、多くの歌が詠まれた場所というのは、三郷町立野の龍田を指してると、私は思います。

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 三室山を下りて竜田川のそばまで来ました。竜田川の岸にべたっと張り付いたような岩があります。
吉野 御幣岩(ごへいいわ)です。正面から見ると、御幣がたくさんぶら下がっているように見えるからです。昔、大峯山へ行く時には、まずここで禊(みそぎ)をしたそうです。



川床やボートでにぎわった
秋の名所が年中美しい公園に

 三室山からさらに上流方向へ200〜300m程川沿いを上ってきました。竜田川の左岸が小さな山になっていて、紅葉が素晴らしいです。川には風情ある朱色の橋が3本架かっていますね。
吉野 目の前に見える、真ん中の橋は堂山橋。山になっている所は、片桐且元という武将が陣屋を建てた場所です。且元は、陣屋を攻めから守るために、別の所を流れていた竜田川の筋を今のように変えたのです。

 この辺りは、いつ頃から紅葉の名所として有名に?
吉野 万葉集、勅撰和歌集にモミジは出てきますが、もしかすると、当時ここがモミジの名所だったとは言えないかもしれません。江戸時代初期に貝原益軒が書いた「和洲巡覧記」には、この竜田川の岸に当時は1本のモミジもなかったとあります。恐らくそれ以降に、地元の方が町・村おこしのために、たくさんのモミジを植えて、「ここが有名な竜田のモミジ」と宣伝したんだろうと思います。それが記録によると寛政12(1800)年のこと。吉野の桜と共に有名になったのは、明治30年に、現在の文部科学省に当たる所が竜田のモミジを教科書で紹介してからです。川岸に料亭が何軒かあって、三味線の音が聞こえ、川床を張ってすき焼き鍋や七輪をかけて、というにぎわいだったそうです。昭和30年代までは貸しボート屋さんもありました。今はその面影はありませんが、その代わり、百数十種の木を植えて、四季を通じて人が集まる本当にいい公園になりました。10月末頃に通った時は、斑鳩町の職員さん方が草を刈っておられました。近辺の方も一生懸命、川と公園を奇麗にしています。ここから500m程上がると、在原業平が渡った「業平橋」があり、その辺りまで公園は続きます。

 昔の竜田川は今よりもっと奇麗だったんですか?
吉野 上流のほうで、茹でた素麺をこの川で洗って食べたっていうぐらい奇麗だったそうです。みんなで努力して、そういう奇麗な川にしたいと思います。

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堂山橋にて 吉野さんと

竜田川の紅葉はこれからが見頃です。ぜひ、お出掛け下さい!そして秋を楽しんで下さい!今日ガイドをお願いした吉野さんが所属する「斑鳩の里観光ボランティアの会」の皆さんは、無料で法隆寺をはじめとした斑鳩町のガイドをして下さいます。お申し込みやお問い合わせは「法隆寺iセンター」まで。
tel.0745-74-6800