「なもで踊り」の様子
奈良県安堵町 飽波神社

命の水をこう
昔の踊りが町に復活

〜飽波神社のなもで踊り〜
2006年11月4日放送

JR法隆寺駅から北東方向へ10分程歩いた富雄川に来ています。富雄川は南へ行くと大和川に合流します。この富雄川を境に東が安堵町、西が斑鳩町です。今日(10/21)はこれから、安堵町役場近くにある飽波(あくなみ)神社で「なもで踊り」という珍しい踊りが見られるとのこと。この踊り、どうやら雨、そして大和川に関係が深いようです。詳しいお話を安堵町商工会事務局長の福井保夫さんに伺います。


明治以降途絶えていた
雨ごいの踊りを復活

 飽波神社に来ました。近くに、聖徳太子が建てた法隆寺がありますが、この神社も聖徳太子と何か関係が?
福井 聖徳太子が晩年を過ごした「飽波葦垣宮(あくなみあしがきのみや)」だったと言われる所の一つです。この宮は、元はもう少し北にあったのが、西暦1000年頃にここへ移転したと言われています。神社の中には、聖徳太子が休憩して座ったという石もあります。

  今から始まる「なもで踊り」は、どんな踊りですか?
福井 延宝元(1673)年に始まった雨ご
いの踊りです。

  ということは、稲作と深く関係があるんでしょうか?
福井 そうですね。ですから、いろいろな資料にも6、7、8月頃に踊られていたと記されています。大和平野、つまりこの奈良の平野部で多かったようで、天理では「紅幣(べにしで)おどり」、明日香村では、同じく「なもで踊り」という形で雨ごいの踊りがあります。

  どういうことで、この踊りを復活させたんですか?
福井 安堵町商工会として、町おこしの一環で何かしようと思い、いろいろ調べてみると、このなもで踊りの資料があったと。それで平成7年に約100年振りに復活させました。天理の紅幣踊りや明日香村のなもで踊りをビデオ撮影したり、資料を見ながら踊りの先生に踊りを復元してもらったり。衣装は当時のものが神社に残っていたので、それを参考に作りました。町のみんなが楽しく踊れるように、ストーリー性のある踊りになっています。前半は、雨をこう振りがあり、そこに鬼の面をかぶった人が登場。鬼が棒で天を突くと雨が降る、といった感じです。歌詞の中に「安堵の明神、雨が降ってきてありがたや」とあります。安堵の神に代わって、鬼が雨を降らしたということです。後半は、感謝を表す踊りになってます。

 踊り手さんは何人ぐらいですか?
福井 30〜40人程です。今日はお祭りなので、子供たちも一緒に入って踊ります。最近では、小学校でも、運動会や昼休み後に全校生徒で踊ったりと、一歩一歩町内に浸透してきたなという気がします。高齢者の方にとっても踊りの練習が一つの楽しみになっているようで、高齢者の方が一番元気なくらいです。

 神社で見つかった「なもで踊り」にまつわる絵馬にも、そうした踊りの場面が描かれているそうですね?
福井 いろんな衣装を着た人が並んでいる絵です。絵馬の大きさは1.5m程あり、外からも見られます。




 神社の建物の奥にありますね。カラフルで奇麗な色です。こうした絵馬も参考に踊りを復元されたんですね。ところで、なもで踊りの「なもで」って何ですか?
福井 漢字で「南・無・天(手)」と書くので、「なむで踊り」とも言われたようです。「南無阿弥陀仏」と拝みながら、という意味があるとも聞きますが、定かではありません。

 そう聞くと、ありがたい言葉のような気がします。このなもで踊り、大阪のほうでもあるのですか?
福井 松原市のほうで、専門家の踊り手、作曲家、歌い手の方々で復元されてました。大和川が流れている関係で、あの辺りもあったということです。

  大和川をたどっていけば、各地でそれぞれのなもで踊りがあったかもしれないですね。
福井 そう思います。私どもの踊りの歌詞の中にも、「天王寺」という言葉が出てきます。奈良から大阪へという形であったんじゃないかと思います。

鬼が天を突き、雨が降る
水の恵みの喜び、感謝を表現

 さあ、なもで踊りが始まりました。おじいさん、おばあさん世代の方々と、小学生のグループがそれぞれ列になっているところからスタートです。輪を作り、盆踊りのように踊りを始めました。田畑を耕す姿も見られます。白髪を振り乱し、竹の棒を振りかざした鬼が登場しました。これは、雨が降っているシーンでしょうか。鬼が消え、また輪になった皆さんが踊り始めました。小太鼓を持った3人が、カラフルな衣装を身にまとって登場。そして、今は雨が降った後の喜びを表現した感謝の踊りをしている最中のようです。


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福井さんはかつて
プロ野球の投手として活躍

昔の人たちは農作物を作るのに、雨や川と真剣に、そして密接に関わりあっていました。まさしく命の水なんだなあと思いました。現代を生きる私たちは、水道をひねれば水がすぐに出てきます。これからは、川とつながっているんだということを深く認識しながら、水を大切に使っていきたいなと思いました。