上方浮世絵館の展示

 今回は大阪ミナミの地で、大阪と密接な関係を持つ絵画が楽しめるスポットを2カ所、訪ねました。
  最初は、法善寺(水掛不動尊)のすぐ近くにある「上方浮世絵館」。浮世絵というと江戸のイメージが強いのですが、上方でも優れた浮世絵がたくさん描かれました。しかし、作風やモチーフなどが違います。上方浮世絵にはどんな特徴があるのか、高野征子館長にお話を伺いました。
 上方浮世絵は、道頓堀五座で上演されていた歌舞伎の役者絵が中心で、上方浮世絵館には江戸末期から明治時代にかけて上演された名舞台の千両役者絵などが展示されています。絵はどれもフルカラーで、1枚あたり10枚の版木が彫られ、すべて違う色が着けられて摺られました。中には15〜20枚の版木を使った浮世絵もあります。上方浮世絵は大衆文化として育ち、歌舞伎を見た人が今で言う“プロマイド”のような感覚で購入したため、一般家庭に残っている可能性も高いそうです。同じ浮世絵でも、江戸は風景画や美人画が多いのに対し、上方は90パーセントが役者絵。数少ない美人画にしても、遊郭の女性たちが夏に仮装して町を練り歩く「ねりもの図」があるのが特徴。また、上方浮世絵はリアルに描かれていて、例えば、短足ぶりなどもそのまま美化されずに表現されているとのことです。


版木なども展示

 館で一度に並ぶのは30枚。その内、見比べてもらえるようにと江戸の浮世絵も3〜4枚展示。多くの所蔵品の中から選んで、3ヶ月に一度、展示替えをしています。1人の主婦として、趣味で30年ほど前から上方浮世絵を集めはじめたという高橋さん。子育てを終え、ご主人を亡くされた後、淡路島から出てきて以来、長くお世話になった大阪に恩返しをしたいと思い、ご主人が残されたこの土地で自分のコレクションを公開しようと決意したそうです。
 取材時に開催されていたのは、第38回企画展示「ゆめかうつつかもばろしか 不可思議世界の芝居」 。作品を見せていただくと、文政9(1826)年に中座で尾上菊五郎が演じた「菅原伝授手習鑑」がありました。道真が太宰府に流され、没した後、相次いだ天変地異は道真の怨念のためだと言われ、天満宮に祭られた話を題材にした歌舞伎です。道真が火を噴いている様子が描かれていました。また、同じ菊五郎が角座でお岩を演じた「いろは仮名四谷怪談」も印象的でした。

上方浮世絵館入口

 次の第39回企画展は「上方浮世絵の世界」で、3月23日〜6月中旬まで開催の予定。絵師にスポットを当てた内容になるそうです。

  
   ■上方浮世絵館

 開館時間:午前11時〜午後6時(入館は5時30分まで)
 休館日:毎週月曜日(祝日は開館して翌日休館)
 入館料:大人500円、小中学生300円
 電話:06-6211-0303

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岡本太郎タイル画「ダンス」

 次に訪れたのは、増床グランドオープンしたばかりの大阪タカシマヤ。、7階レストランフロアにお目見えしたのは、1970年開催の大阪万博で太陽の塔を造った岡本太郎のタイル画でした。15年前に他界した岡本太郎は、生きていたら今年で100歳であることから、「TARO100祭」プロジェクトが行われていて、大阪タカシマヤもそれに参加しているようです。「高島屋広報・IR室の安川武男さんにお聞きしました。
 このタイル画のタイトルは「ダンス」で、大きさは約2.4×約3.5メートル。グランドオープンを機に3月1日から常設展示が始まりました。レストランフロアのパブリックスペースに展示されているため、誰でも無料で見ることができ、待ち合わせ場所としての利用にも便利。この日も、設置された椅子で休む方、記念撮影をする方などが見受けられました。
 この作品は、1952年に愛知県の伊奈製陶(現INAX)で岡本太郎が製作したもの。1センチ四方のタイルが全38色、約5万7400個使われていて、1950〜69年に大阪タカシマヤ1階にあった大食堂で展示されていたことが分かっています。しかし、69年に改装で大食堂がなくなり、その後は東別館で保管されていたそうです。

「創生」の原画(期間限定展示)
   

 そんな「ダンス」が復活することになったのは、今年が高島屋創業180周年、難波開業80周年にあたり、3月には全館グランドオープンを迎えることから、大阪タカシマヤが「TARO100祭」プロジェクト」に参加し、プロジェクト「蘇れ!岡本太郎の『ダンス』」を設置したことから。修復蘇生作業は、昨年10月にINAXに運び入れてスタート。油やほこりはかぶっているものの、タイルそのものの破損やはがれはなく、下地のベニヤを補強した上、表面の洗浄が行われました。ただし、当時は水に弱い接着剤が使われていたため、タイル一つ一つを綿棒で奇麗にしていくという細かな作業で進められたそうです。また、岡本太郎がこだわった赤色については、当時、タイルで表現できなかったことから、直接、タイルに着色がなされていて、 その一部にあったはがれ部分にも着色作業が施されました。
 修復蘇生作業を進める中、目地にも着色されていることが判明。また、当時の新聞記事も見つかり、それによると、この作品は犬と猫と少女が無邪気に遊んでいる様子がモチーフだと書かれていました。
 なお、 岡本作品のタイル画作品第1号は、同じ伊奈製陶で造られた「創生」で、「ダンス」は第2号。「創生」は、当時、東京の日本橋タカシマヤ地下通路壁面に展示され、二つは対を成す作品となっていたそうです。残念ながら「創生」のタイル画は残っていないものの、原画は保存されていて、取材日には期間限定で展示もされていました。