植松(右)さん田中さんと天明湯で 

 2月6日の「ふろの日」を前に、今回は「銭湯文化サポーター's」の活動をご紹介。代表を務める漫画家のラッキー植松さんは、スーパー銭湯などの良さも認めつつ、地域に根付き、公共マナーや気遣いによる社会教育の場ともなっている銭湯文化を愛し続けています。
 そんな植松さんがお薦め銭湯として案内してくれたのが、大阪市阿倍野区の地下鉄谷町線文の里駅近くにある天明湯。田中キヨ子さんが一人で切り盛りするというこのお風呂屋さん。古き良き銭湯の姿を奇麗な状態で保っているところを、植松さんは高く評価しています。実際、下足箱、脱衣箱、見事ならん間、格(ごう)天井といった、木の暖かみが感じられるすばらしい空間でした。
  田中さんによると、建物は大正14年の落成。その後、何回か手を入れて営業を続け、経営者も代わって、田中さんで四代目だそうです。ただ、今は家の事情や燃料にしている廃材の確保が難しいこともあり、営業時間が午後4時30分から7時までと短く、また、水曜日と金曜日は休んでいるため、勤め人の利用は難しく、主婦など限られたお客さんに限られるという。来ても閉まっていることが多いため、「幻のお風呂やな」と客さんから言われることもあるそうです。

見事ならん間と格天井

 田中さんの頑張りに感謝しているという植松さん。彼が代表をつとめる銭湯文化サポーター'sは、銭湯好きの皆さんが集まり、減り続ける銭湯を少しでも残せるように、また、銭湯文化のよさを知ってもらえるように、2008年2月から色々な活動を続けています。当時、同じ阿倍野区に全国的に有名で、国の登録有形文化財にも指定されていた美章園温泉という銭湯があり、そこが突然営業を止め、取り壊されることに。植松さんも自宅から近くてよく通っていたそうですが、取り壊しにショックを受けた人たちが多く、ある女性の企画により見学会が催されることになったそうです。そこに全国から集まった約200人が母体となって出来たのが、銭湯文化サポーター'sとのこと。
 自宅に風呂があっても、年に300日以上は銭湯通いという植松さんは、外出する時は常にタオルや着替えなどを持ち、いつでも銭湯に飛び込める体制を整えているそうです。しかし、子供のころは自宅に風呂があったため、銭湯に通い始めたのは20代で一人暮らしをしてから。たまたま、現在も大阪市内で最も銭湯が多いという生野区だったため、色々な銭湯があり、巡っていく面白さにはまって、建物や雰囲気、設備の違いなどを味わうようになったそうです。

お風呂マップ96を見ながら

 銭湯は偶然見つけて飛び込みで入るのもいいが、1996年に大阪府浴場組合が作成した「お風呂マップ」の利用が便利とのこと。大阪府下のすべての銭湯が網羅されており、植松さんのマップを見ると、行ったところに線が引かれていました。植松さんによると、大阪の銭湯はそれぞれに工夫がされていて、サービス精神があふれているという。例えば、旭区にある神徳温泉は普通の銭湯の3倍ほどの大きさがあり、設備もここにないものはない、というほどの充実ぶりなのだそうです。しかも、料金は普通の銭湯と同じ。
 銭湯はその地域の人たちが集まり、交流をするところであり、初めて行ってもそこに受け入れてもらえる温かさを持っているのが、スーパー銭湯にはない魅力だと植松さん。その一方で、広々とした開放感や水風呂と湯船に交互に浸かるといった、自宅の風呂では味わえない点も魅力だと言います。

女湯にはレトロなベビーキープも

 銭湯マニアに色々なタイプがいるのも楽しく、例えば、細かい点にこだわり、脱衣箱の鍵を見ては、「このオシドリのマークは何々、ラクダのマークは何々」という具合に解説を始める人がいるそうです。そんなこだわりの視点で、漫画家の植松さんに風呂場の壁画について伺ったところ、一般的だと考えられている富士山の絵は、大阪では少ないとのこと。東京には多いが、大阪ではむしろ珍しいのだそうです。
 銭湯文化サポーター's
では、メンバーに呼びかけて銭湯ツアーをやったり、銭湯の掃除を手伝うイベントをしたりしています。大きな風呂を掃除するのは本当に大変だそうですが、登録160人、実働20人というメンバーの中には、飲み会など他のことには参加しないのに、なぜか風呂掃除イベントだけは欠かさないという人もいるそうです。