天五中崎通商店街

 天神橋筋5丁目商店街と中崎1丁目交差点を結ぶ天五中崎通商店街(おいでやす通り)は、昭和のテイストを残す東西に長い商店街。古くからの商店の中にはシャッターも目立ちますが、天満と梅田を結ぶ道として機能し、人通りが多いのが特徴です。ここで月に1度、北天満サイエンスカフェが開催されています。
  大阪大学理学研究科附属構造熱科学研究センターの長野八久(やつひさ)さんによると、路上に椅子を並べ、開催中の出入りは自由。参加者の前に立つ科学者は、講師ではなく話題提供者と呼ばれ、参加者からの質問など自由に対話しながら内容を進めていくという形式、つまりカフェで話をする感覚で科学を楽しんでもらうのがサイエンスカフェだとのこと。あくまで主体は市民であり、いくら市民講座と名がついていても、先生が知識を授ける形式のものとは決定的に異なるようです。
 長野さんと北天満との関わりは、事務局長を務めるある学会を通じて始まりました。長年、事務局が置かれている天六に通っているのに、利用するのはコンビニと何軒かの飲み屋のみ。 このつながりのなさを常々気にかけていたところ、ある集まりで中崎東商店会の青山会長と知り合って意気投合。2010年10月からサイエンスカフェをすることになったそうです。

空き店舗を利用したカフェのオフィス前で

 ところで、科学というと、つい自然科学を思い浮かべがち。しかし、北天満サイエンスカフェで取り上げるものには人文科学も社会科学もあり、生活に関わる身近なテーマがいっぱい。例えば、2010年10月の第20回は、「テレビ・映画に見る人間模様を科学する」がテーマ。話題提供者は、大阪大学大学院・言語文化研究科のジェリー・ヨコタさんでした。その一方で、2009年11月の第2回は「しっぽが短いと短命?2009年ノーベル医学生理学賞 染色体のしっぽの話」 をテーマに、 ノーベル医学生理学賞が贈られた「テロメア」に関する話題を、大阪大学大学院理学研究科井上明男さんが提供。 テロメアとは染色体のしっぽの部分で、それが複製を重ねるごとにどんどん短くなり、ある長さになると寿命が尽きるそうですが、ちょっと難しいこの話題を持ってきたものの、始まると、テロメアが人間の老化に関わるものであるなら、人間の老化はどう進むのか、ストレスやメタボとどう関わるのか、という質問が参加者から飛び、参加者が主体となって老化の話になっていったそうです。そして、やりとりが見事に成立し、全員が満足して帰っていったとのこと。とっかかりは難しくても、参加者が自分の興味ある方向に引っ張っていくというのがサイエンスカフェの魅力であると言えそうです。 

マロニエの学生が作ったマップ

 北天満サイエンスカフェを始めて、北天満はどのように変わったのでしょうか。 中崎東商店会青山隆一会長によると、若い学生が商店街に集まって路上イベントをするということで、商店街のみならず、地域の人たちまでもが、自分たちも何かをしなければという雰囲気を持ち、気に掛けてくれるようになったという。北天満サイエンスカフェは参加費無料、しかも参加者は商店街の指定店で使える金券が割引で買えるという特典付き。500円の金券を400円でゲットできます。
 青山さんが北天満のまちづくりに取り組み始めたのは、6年前に商店会の会長になってからのこと。大阪市立大学の加藤司教授の奨めで、天六にあるマロニエファッションデザイン専門学校の学生と組んで、北天満のお散歩地図というマップとホームページ作りをすることになったのが始まりだそうです。特徴は、商店街周辺に残る長屋に出来つつある新しい店をも含めた地域全体の振興を目指している点。商店街と地域が手を結ぶ例はまだまだ少なく、北天満はそのお手本としても注目を集めています。

若山隆一さんと(左)    店内にて(右)

 インタビューの後は、いつものように町を散策。商店街周辺は戦災を逃れた古い建物が残り、それを利用したお洒落な店もぽつりぽつり。そんな中、昔ながらの商売を営む「尾張屋」を発見。看板には、洗張(あらいはり)、ゆのしと書かれていました。
 ご主人の若山隆一(70)さんの説明では、着物を洗う商売だとか。着物は反物1反を八枚に切って作っていますが、その着物をばらばらにして洗い、伸子(しんし)に張って伸ばし、アイロンを当てて仕上げるのが仕事だそうです。創業は明治の末期で、若山さんが三代目。この商売は大阪でも数十軒残っているかどうかとのことで、弟さんと営む若山さんにも後継者はいないという。また、使用している昔ながらの石けんも、いつ手に入らなくなるのか不安があるとも。
 この町については、町会で一つにまとまっていた昔と違い、若い人がどんどん出て行くため寂しくなった。ただ、マンション街とはひと味違う、とも語ってくれました。