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空堀の街並 |
舞台演出家のにしおみつこさんは、奈良県明日香村の出身で、東京暮らしを経て空堀に移り住んだのは1974年。仕事に便利だからという理由で空堀に初めて出来たマンションを購入したところ、古い街並に残る冠木(かぶき)門と、引っ越した日に聞こえてきた「明六つ暮六つ」の梵鐘の音にすっかり魅せられたそうです。
にしおさんは、空堀をイメージした町を舞台にした童話「泣いたカラス」(文芸社)を4年前に上梓しました。ホームレスの男性とカラスとの不思議な、そして心温まる友情を描いたこの物語は、にしおさんの古里と空堀での生活が重なりあって生まれたよう。お祖父ちゃん子だったというにしおさんは、当時、空堀のお寺の軒下などで寝ている人とよく話したりしていたとのこと。また、豊かな自然の中で育った体験から、人が自然を壊していくことに敏感で、元々住んでいた森を壊されて町に来たカラスと、何かの理由でそれまでの居場所を離れているホームレスの人たちに共通するものを感じたようです。舞台と空堀は、にしおさんにとって、わけありの人や物などを優しく受け入れている町に映っているのかも知れません。
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空堀商店街
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空堀にたくさんある路地の散策が好きという、にしおさん。通り抜けられそうもないように思える細い路地でも、大概はどこかに出られるという。しかし、にしおさんもすべての路地を歩いたわけではなく、探索をすべく目をつけているところもまだあるそうです。そんなにしおさんに路地歩きをする場合のマナーについて伺いました。生活の場であることをよく心得、のぞき見ることやカメラを向けることは御法度。そして、夏場の夕方にはお年寄りが家の前に座って薄着で涼んでいることがあるが、そんな時はすっと通り過ぎてあげてほしい、とのことでした。
にしおさんは商店街も大好きでよく利用するそうですが、各店の人たちと仲良くなりすぎて、何も買わないときに声を掛けられると心苦しいとも。スーパーで買い物をして半透明のレジ袋にその商店で売っている商品が入っている時など、見られないように自分のバッグの中に入れたりして通り過ぎるようにしているなど、ほほえましいエピソードも聞かせてくれました。
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空堀の街角で
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空堀をこよなく愛しているのは、年配者だけではりません。次に訪ねたのは、空堀に住んで約2年ではあるものの、DNAは空堀人と自称する32才の小上馬(こじょうま)大作さん。父親の代まで空堀に住み、小上馬さん自身も近くにある聖バルナバ病院(上本町)で生まれたそうです。以後、郊外の町に育ち、東京の大学に入って就職もしたものの、空堀周辺で不動産関連の事業を営むことになり、今は妻子とともに空堀住まい。
この町には、10年前から長屋の再生などを通じてまちづくりを進めている「からほり倶楽部」がありますが、小上馬さんはそのメンバーでもあります。この町に住み、この町で仕事をするためには、まず町のことを知らなければと思ってネット検索をしていて存在を知ったのが会員になるきっかけだったとのこと。小上馬さんが感じるのは、空堀は若い人が長屋住まいを希望するなど「幸運な町」だということ。歴史あるレトロ建築に価値を見いだしている、そんな若い人たちが、きっと空堀の長屋を引き継いでくれるだとうと期待しているそうです。
町の活性化のあり方については色々意見がある中、空堀は意外と頑張っているのではと小上馬さん自身は評価。しかし、イベントなどをするのに外部からコーディネーターを呼んできてもだめで、あくまで町の人自身がしていかなければならない。イベントの日だけシャッターの開く商店があってもいい、それが年に1日でけから、3日、5日、10日へとだんだん増えていけばいいのではないか、という持論も聞かせてくれました。
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古い民家の壁面に展示された作品(昨年)
提供:からほりまちアート実行委員会
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空堀に生まれ育った人、空堀に移り住んだ人、空堀に帰ってきた人、色々な人が住むこの町を有名にしたものの一つが、空堀の町全体にアート作品が並ぶ「からほりまちアート」です。10回目を迎え、かつてないほどの盛り上がりを感じる人もいる中、今回で最後となるという衝撃的な話も流れました。最後に、「からほりまちアート実行委員会」の渡辺尚見副実行委員長(写真左)と島田佐緒理さんに伺いました。
からほりまちアート、今年のテーマは「日奇交交 (ひきこもごも)」。来場者に日常の世界と奇妙な世界を見つけてもらい、想像していただくことを目指しているとのこと。アート表現部門、似顔絵部門、アートマーケット部門があり、今年は第10回を記念して春に何度かワークショップを開催。古地図を見ながら空堀の町歩きなどをしてもらい、実際に町を見てもらってインスピレーションしていただけるようにし、アート表現部門にはこれに参加した人だけが出展できるようにしたそうです。
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路上だってギャラリーに(昨年)
提供:からほりまちアート実行委員会 |
作品は、長屋の壁面、格子、石畳の路地、さらには、(一般の住宅を借り)長屋の部屋や風呂場にも展示されます。そうした作品を見ながら、自分でもオリジナル作品が作れてしまうという工夫も。会場全体でスタンプラリーが行われますが、数量限定の白い手ぬぐいを100円で求め、そこに各所にある空堀をモチーフにしたスタンプを押していくと、空堀の街並が出来上がっていくというものだそうです。
ところで、気になるのは「今年が最後」の理由。 やはり不景気のせいかと思いきや、そうではないようです。10回目を迎え、この時期に開催されるのが当たり前という感覚になってきたため、ここでいったんなくすことで新たな何かが生まれるのではないかという期待から、今年を最後にすることにしたそうです。それが、この町の人々にとっても、実行委員会にとってもステップアップすることにつながるとの考えがあるようです。
人気のイベントだからこそなくす、なくなった危機感からさらに新しいものが生まれる。古い街並を守るためには、そんな新しさへのチャレンジが欠かせないのかもしれません。空堀に見習う点をたくさん感じた取材でした。
からほりまちアート 2010年10月30日(土)、31日(日) 午前11時〜午後5時まで開催
地下鉄谷町線の谷町六丁目駅、長堀鶴見緑地線の松屋町駅などが最寄
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