兼平地蔵のある大正時代に出来た民家

 幹線道路を少し入ると、昔ながらの長屋や路地が多く残る大阪市福島区野田地区。この町にひかれた若い皆さんが、地元住民や商店、企業と一緒になってまちづくりに取り組むべく5年前に設立したのが「野田まち物語」です。1年半前に番組で紹介した際、イベント開催や椅子の設置、他地区団体との交流などを行っていましたが、最近になって活動内容も増え、この夏からは新しく「スキマ大学」という新プロジェクトもスタートしました。メンバーの大西崇之(たかゆき)さんに、現在の活動内容について伺いました。
 それによると、今の野田まち物語には、大きなストーリーが七つあるとのこと。大阪市中央卸売市場に近いことから、食文化をつなげて展開を模索する「大阪の勝手口物語」。安治川流域の他地域の団体と一緒に、行政区域にとらわれない住民の視点によるまちづくりを進める「安治川流域物語」。ストリート・ファニチャー(憩いの椅子)を町中に設置していく「憩いのスポット物語」。野田に11体あるお地蔵さんを通じて交流を図る「ななとこまいり物語」。色々な店舗をネットワーク化することでオリジナル商品や地域ブランドを開発して活性化を目指す「野田モール物語」。高齢化が進み、古い長屋や空き家が増えている野田で、建築上の相談に乗って建物の活性化を図る「住まいコンシェルジュ物語」。そして、野田に多くいる魅力的な人たちを地域の資源としてフィーチャーしていく「野田人物語」。この七つです。

左から 大西さん、西江さん、田中さん

 建築関係の専門学校で教鞭を取る一級建築士の大西さんは、「住まいコンシェルジェ物語」編集長。専門知識を生かし、住まいに関するよろず相談に乗り、問題解決のお手伝いをしようとしてきましたが、来てくれる人が少なかったため、空き家が増え、町が古くなっている状況をプラスに解釈して何かをしようと思い、そうしたものを「スキマ」としてとらえれば、町の資源として有効利用していけるだろうと考えました。大学といっても難しいことはしない。例えば、昔から地元で営業している青果店のおやじさんに上手な野菜の選び方を教えてもらう、しかし、そこに買い物に来ているおばちゃんの方がもっとよく分かっているというなら、交代して先生になってもらう、といった具合に、教える-教えられるという一方通行的なものでなく、フラットな関係を築きながら開催していくことを目指します。
 スキマ大学の本格スタートは7月4日で、この日のテーマは「だんじり」。スキマ大学の連絡先となっている御菓子司「浪花屋(明治45年創業)」の田中昭久さんによると、野田まち物語のメンバーで若手だんじり愛好家の山中裕一さんが講師を務め、大阪や兵庫のだんじりついて、だんじりとは何かという話から始まり、種類や言われ、歴史などの話が繰り広げられたそうです。なお、野田では7月19日と20日にだんじりが練り歩くとのことでえす。

出世地蔵
左側には地蔵をモチーフにした憩いの椅子

 次回の開催は8月1日(日)で、テーマは「ななとこまいり」。講師を務める「ななとこまいり物語」編集長の西江智子さんによると、野田には11体のお地蔵さんがあり、そのうち七つを回ってお参りをすると一つ願いがかなうという「ななとこまいり」の言い伝えがあるとのこと。こうしたことやお地蔵さん自身のことを地元の人たちにもっと知ってもらい、お地蔵さんを好きになってもらえるような内容になれば、と抱負を語ってくれました。話の後、実際にななとこまいりもするそうです。
 そんな西江さんにお願いし、一足早くお地蔵巡りを楽しむことに。最初に訪れたのは、2体のお地蔵さんが並ぶ「出世地蔵」。 名前が人気で、出世を願う人がよく訪れているそうです。 お地蔵さんがインドから大陸を経由して日本に伝わったのは奈良時代といわれ、このように町中で見られるようになったのは、民間信仰として根付いた室町から江戸時代にかけてだとのこと。飢饉や戦(いくさ)、川の氾らんがあった時、立ち直ろうと民衆が道ばたに置いても丈夫な石でお地蔵さんを作って祈ったのだそうです。

子安地蔵
(画面右上はお地蔵さん掲示板を合成)

 2番目に訪れたのは「子安(こやす)地蔵」。このお地蔵さんの特徴は、胸に子供を抱っこしていること。この子供の頭をさすりながら願いことをすると、わが子の健康に関する願いがかなうと言われているそうです。実際、子供のいる人がよくお参りをしているそうで、抱かれた子供の頭の部分が黒くなっています。

 野田のお地蔵さんのほこらなどには、それぞれのお地蔵さんの由来などが書かれている「お地蔵さん掲示板」が付けられています。これも野田まち物語が設置したもの。200円で頒布中の「ななとこまいりMap&GuideBook」をあわせて利用すれば、野田の地蔵について多くのことを知り、楽しむことができます。

兼平地蔵
井戸は今も水が汲める現役

 最後は、西江さんが野田のお地蔵さんの中で一番好きだという「兼平(かねひら)地蔵」に。長屋の一角に井戸が残り、その上にほこらが設けられている風情が魅力的。赤い憩いの椅子ものんびりとした雰囲気をかもし出しています。
 この兼平地蔵は、野田で唯一の化粧地蔵。地蔵尊は仏教的には中性だそうですが、兼平地蔵は、毎年、地蔵盆の前になると地元の子供たちの手によりお化粧が施されるとのこと。しかも、井戸水で顔を清め、一度すっぴんにしてからお化粧。したがって、その年々によって顔も変わることに。今年は暑いからどんな顔になるのかなあと、西江さんは早くも地蔵盆が待ちきれない様子でした。

 ■スキマ大学についての問合先:
  御菓子司「浪花屋」  06−6461−2005