20世紀初頭のオルゴール「MIRA」を聴きながら

 なにわ創生塾代表の森田登代子さんは、大学院時代に嫁いだ先で4世代の大家族の妻・母として暮らした関係上、念願だった博士課程への進学、学位取得は40歳を過ぎてから。それを通し、年を重ねてから学ぶことの大変さを知り、偉い先生の話を一方的に聴いて終わってしまうカルチャーセンター的な学びの場にシニアが走りがちな状況が理解できたそうです。そこで、じっくり時間をかけ、自主的に調べて勉強するお手伝いの場をつくりたいと、なにわ創生塾を始めました。「牛のよだれ」=細く、長く、途切れずに続けるのが本当の勉強だと、森田さん。
 上方の古典文化に関するものを基本に、シニアになってもここで好奇心を満たせるようにと設定された各講座は、月に1度のペースで開催。内容は、「シェイクスピア『リア王』を原文で読む」「能・文楽・歌舞伎を百倍楽しむ大阪人講座」「仏教の世界」「源氏物語を読む」「須賀敦子全集読書会」など、少々ハードルが高そう。しかし、例えばリア王の講座では、読むだけでなくリア王の映画も英語で鑑賞するなど、興味が持てる工夫も施されています。

1904年ごろ製造「レジナ」
下段のディスクが上がるオートチェンジャー式

 近世庶民生活史が専門で、大学でも教鞭を取る森田さんが、なにわ創生塾て持っている講座は「古文書イロハ」。ただ昔の字を覚えるだけでは退屈だろうと、古文書を読むことで当時の生活などを知ることができる工夫もしているとのこと。今は江戸後期・文化年間に大阪で出版された「進物便覧」を読んでいるそうで、これは、お祝いや見舞いなどにどんなものを贈ったらいいかという当時の人々のマニュアル書であり、読むことで当時の生活ぶりやはやりなどが分かるそうです。
 ただ、このような工夫に富んだ講座であっても、勉強だけではなかなか人が集まらないもの。そこで、シニアのフラダンスやいきいき生命ヨガ、シニアも喜ぶ太極拳など、楽しい講座もたくさん開講しています。こちらは週に1回のペース。唱歌や懐かしい曲をグランドピアノの伴奏で歌う「童謡レストラン」(月に2度)は一番人気とのことです。


オルガン式オルゴール

 そんなお楽しみ講座の一つに、やはり森田さんが担当する「アンティークオルゴールの会」があります。 19世紀〜20世紀初頭にかけて造られた古いオルゴールの音色を、お茶を飲みながら楽しむという他とは少し毛色が違った講座です。森田さんは一時、アンティークオルゴールの収集に凝った時期があり、現在、8台を所有。今回の取材でも、数千万円をかけたというそれらの音色を聴かせていただくことができました。
 オルゴールというと、ピンの付いた円筒形のシリンダーが回り、櫛歯形振動弁(コウム) を弾いて音を出すものを思い浮かべがちですが、森田コレクションの多くは、ピンの付いた巨大な円盤が回るディスク・オルゴール。しかも、何枚ものディスクが自動的に入れ替わって演奏するオートチェンジャータイプのものまであります。藤原宏美の身長を超えるような木製の本体から聞こえてくる音は、ずしりと重くて柔らか。なかには、コインを入れると演奏を始めるものもあり、駅などでジュークボックスのように使われていたことが伺われたりします。

シンギング・バード

 珍しいタイプのものでは、木製シリンダーが回り、オルガンそっくりの音を出すオルガン式オルゴール。西部開拓時代のアメリカの教会で、オルガンの弾けない人々のために造られたものだとのこと。ゼンマイ式ではなく、手で回している間だけ聖歌が流れてくる仕組みになっています。また、鳥かごの中にいる鳥が首を振りながら、鳴き声のような音を出すシンギング・バードもなかなかの珍品。初期のころには、こうしたものも造られたそうです。

 ところで、なにわ創生塾を運営する「NPO法人ピースポット・ワンフォー」 には、いくつかのスタジオがありました。実はもう一つ、ダンス教室事業も行っているとのこと。森田さんは、まずこのダンス教室を開き、NPO法人としての経営基盤をしっかりと確立した上で、なにわ創生塾の事業をスタートしました。財政的に行き詰まって解散してしまうNPO法人も少なくないなか、自立するNPO法人のあり方としても注目されるところです。